中村雅徳教授らの国際共同研究チームの学術論文が『Nature』に掲載されました
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波長3.5mm帯の国際電波望遠鏡ネットワークによって得られたM87中心部の電波画像。2018年4月14日から15日にかけて、グローバルミリ波VLBI観測網(GMVA)にアルマ望遠鏡とグリーンランド望遠鏡が新たに参加して観測が行われました。中心部のリング状構造が巨大ブラックホールを取り巻く降着円盤で、ジェットの根元の様子も同時に捉えられています。南側と北側から大きな開口角で噴出し、下流側(画像向かって右上方向)に向かって次第に絞り込まれていく様子が捉えられています。降着円盤付近ではその形状の詳しい解析から、ジェットを取り囲む「円盤風」(円盤から吹き上げられた低速のガスの流れ)が存在する可能性も示されました。(画像クレジット:Lu et al. 2023; composition by F. Tazaki)
総合科学教育科中村雅徳教授は、国立天文台、総合研究大学院大学、東京大学、上海天文台、マックスプランク電波天文学研究所、台灣中央研究院天文及天文物理学研究所、韓国天文研究院、國立台灣師範大学など、日本を含む16の国と地域、100名超の研究者で構成された国際共同研究チームのメンバーと共に、波長3.5mm帯で観測する地球規模の電波望遠鏡ネットワークを用いて、楕円銀河M87の中心部を詳しく観測しました。その結果、巨大ブラックホールの周囲に広がる降着円盤の撮影に初めて成功するとともに、ジェットの根元の構造をこれまでで最も高い視力で捉えました。本成果は、巨大ブラックホールに落ち込むガスから莫大な重力エネルギーが解放される現場を初めて直接的に捉えるとともに、ブラックホールジェットの駆動メカニズム解明にも弾みがつくと期待されます。研究成果は、英国の科学雑誌『ネイチャー』に2023年4月26日付で掲載されました。
2019年4月、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)によって撮影された史上初のブラックホールシャドウの画像が公開されました。撮影されたのはおとめ座の方向約5500万光年の距離にある楕円銀河M87の中心にある、太陽65億個分の質量をもつ「巨大ブラックホール」でした。撮影画像は光さえ脱出できないブラックホールの視覚的証拠を初めて示すとともに、銀河の中心には巨大ブラックホールが存在することを決定的にするものでした。
しかしながら、EHTの画像だけでは感度や視野の制約により、ブラックホールの周囲に広がる構造がはっきりとはわかりませんでした。EHTが撮影した直径約0.011光年のリング状構造は「光子リング」と呼ばれる、ブラックホールに最も近いところで重力によって光の軌道が捻じ曲げられた領域を捉えたものでした。一方M87は「活動銀河核」と呼ばれる明るい中心核を持ち、その莫大なエネルギーの生成には「降着円盤」と呼ばれる構造が光子リングの周りに広がっていると予言されていました。またEHTより波長の長い電波を用いた広視野の観測では、「ジェット」と呼ばれる高速の噴出ガスが銀河中心部から噴出する様子が確認されています。巨大ブラックホール・降着円盤・ジェットという「活動銀河核パラダイム3つのピース」のうち、降着円盤だけが、これまでに観測による視覚的検証がなされておらず、天文学者たちの大きな宿題として残されていました。
研究チームは今回、グローバルミリ波VLBI観測網(通称GMVA)と呼ばれる地球規模の電波望遠鏡ネットワークを主に用いてM87の中心部を詳しく観測しました。研究チームを驚かせたのは、波長3.5mmで測定されたリング構造の視直径は約64マイクロ秒角(0.017光年に相当)と、波長1.3mmのEHTで撮影されたリングの視直径よりも約1.5倍ほど大きく、また厚みもEHTのリングよりも厚いということでした。大きく厚いリング構造の起源を明らかにするために、研究チームはコンピュータシミュレーションを用いて様々なシナリオを検証しました。その結果、3.5mmで撮影された大きなリングは(1.3mmで撮影された)光子リングの周りに広がる降着円盤であることが結論づけられました。本研究のもう1つの重要な進展は、M87の中心部から噴出するジェットがこれまでで最も高い視力で撮影され、降着円盤から吹き出す円盤風によってジェットが収束されている様子が明らかになったことです。長年M87ジェットの理論的研究を世界的にリードしてきた中村雅徳教授は、本研究においても観測立案と観測結果の理論解釈に貢献し、シミュレーションモデルと解析手法が本論文の図2および図3に採択されました。
論文情報
この研究成果は、Lu et al. "A ring-like accretion structure in M87 connecting its black hole and jet" として、英国の科学雑誌『ネイチャー』に2023年4月26日付で掲載されました。日本を含む16の国と地域、65の研究機関、100名超の研究者による国際共同研究成果です。
DOI: 10.1038/s41586-023-05843-w
URL: https://www.nature.com/articles/s41586-023-05843-w
問い合わせ先
中村 雅徳(なかむら まさのり)八戸工業高等専門学校 総合科学教育科
Email: nakamrms-g@hachinohe.kosen-ac.jp
関連リンク
詳細については以下のサイトをご覧ください。
国立天文台 プレスリリース
https://www.nao.ac.jp/news/science/2023/20230427-gmva.html
EHT-Japan プレスリリース
https://www.miz.nao.ac.jp/eht-j/c/pr/pr20230427