塚本 直樹 特命准教授の一般相対論的天体の重力レンズ効果に関する理論的考察の研究成果2編がアメリカ物理学会の学術雑誌Physical Review Dに掲載されました
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塚本 直樹 特命准教授の一般相対論的天体の重力レンズ効果に関する理論的考察の研究成果2編がアメリカ物理学会の学術雑誌Physical Review Dに掲載されました[1,2]。
論文内容要旨:
アインシュタインが作ったことで有名な一般相対性理論は、重力を時空の曲がりで記述する重力理論であり、百年間にわたって観測的な検証をクリアしてきました。一般相対性理論は太陽の弱い重力場による光の湾曲や水星の近日点移動などのニュートンの重力理論では説明できない現象を説明できる最も単純な重力理論であると現在では見なされています。最近では、ブラックホール連星の合体で放出された重力波の観測[3]や銀河の中心にある超大質量ブラックホールとその周辺のガスによるブラックホールシャドーの観測[4]など、コンパクト天体が作る強い重力場中の物理で一般相対性理論を検証できるようにもなりました。
一般相対性理論の基礎方程式であるアインシュタイン方程式を解くことで、物体やエネルギーが空間の各点をどのように曲げるかを知ることができます。しかし、アインシュタイン方程式では、宇宙のトポロジー、つまり宇宙の大局的な形を理論的に決定することはできません。そのため、宇宙のトポロジーを観測的に検証することが必要です。例えば、ビッグバンで生成された光の名残である宇宙背景放射の観測から宇宙のトポロジーが制限されています[5]。
アインシュタイン方程式の非自明なトポロジーを持つ解としてワームホールが良く知られています。静的で球対称なワームホール解を作るためには、エネルギー条件を破る物質が必要であることが知られていましたが、最近、フェルミ粒子を用いたワームホール解が議論されています[6,7]。
ブラックホールやワームホールなどのコンパクト天体の周りには、その強い重力場によって、光の不安定円軌道ができます。コンパクト天体の遠方からやってきて、コンパクト天体の近くまで到達する光には、光の不安定円軌道上を回転するような軌道を描いて散乱されるものがあります。そのため、コンパクト天体の観測される姿は光の不安定円軌道に依存すると考えられています。光源となる遠方の天体、コンパクト天体、観測者が一直線上に並んだとき、コンパクト天体がレンズのように働き、光源天体から放出された光は増光されます。この現象は重力レンズ効果と呼ばれています。
本論文[1、2]では、ワームホールやブラックホールの強い重力場によって作られる光の不安定円軌道で散乱される光の重力レンズ効果を調べました。一つ目の論文[1]では、弱い重力場に関する観測と強い重力場に関する観測を用いて、フェルミ粒子を使って構成されたワームホールとブラックホールを区別する方法を議論しました。二つ目の論文[2]では、ブラックホールやワームホールが太陽系の近くを通過したときに、それらの強い重力場が作る光の不安定円軌道に反射された光が、重力レンズ効果によって、どのように観測されるかを調べました。将来、観測技術が向上するにつれて、重力レンズ効果を使ってコンパクト天体の探索や宇宙のトポロジーの観測的検証が手軽にできるようになるかもしれません。
参考文献:
[1] Naoki Tsukamoto, Phys. Rev. D 105, 064013 (2022).
[2] Naoki Tsukamoto, Phys. Rev. D 105, 084036 (2022).
[3] B. P. Abbott et al. [LIGO Scientific and Virgo Collaborations], Phys. Rev. Lett. 116, 061102 (2016).
[4] K. Akiyama et al. [Event Horizon Telescope Collaboration], Astrophys. J. 875, L1 (2019).
[5] P. A. R. Ade et al. [Planck Collaboration], Astron. Astrophys. 594, A18 (2016).
[6] J. L. Blazquez-Salcedo, C. Knoll, and E. Radu, Phys. Rev. Lett. 126, 101102 (2021).
[7] R. A. Konoplya and A. Zhidenko, Phys. Rev. Lett. 128, 091104 (2022).
掲載された論文概要[1,2]は以下のリンクから見ることができます:
https://doi.org/10.1103/PhysRevD.105.064013
https://doi.org/10.1103/PhysRevD.105.084036