中村雅徳 准教授の"電波干渉計を用いた直線偏光観測の較正プログラム"に関する研究成果が、雑誌「The Astrophysical Journal」に掲載されました。
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活動銀河中心核に潜む超大質量ブラックホール天体(周辺の降着流ガスやジェット噴流を含む)は、ミリ波帯でシンクロトロン放射光(電子が磁場中で加速度運動をする際に放つ電磁波)が卓越しており、我々に届く電磁波は偏光(振動方向が規則的)しています。電波干渉計を用いた偏光観測により、ブラックホール周辺の磁場構造の解明が進むことが期待されています。電波干渉計とは、天体が放射する電波のフーリエ成分を取得し、それを逆変換することで元の天体の電波像を再現する装置です。実際の観測において、各観測局での大気等による信号の位相ゆらぎや望遠鏡感度の測定誤差など装置由来の系統誤差を較正する必要があり、特に偏光観測では、これらに加えて装置起因の偏光特性も較正しなければいけません。この系統誤差は一般的に数?10%程度ですが、検出したい天体由来の偏光成分と比べて無視できないほど強いため較正が必要になります。
総合科学教育科の中村雅徳准教授は、台湾中央研究院天文及天文物理研究所のJongho Park博士らのチームが開発した天体からの直線偏光較正プログラム:GPCALを活動電波銀河M87の中心核からのミリ波偏光検出に適用し、従来の方法(LPCAL)で得た結果を検討するプロジェクトに参画しました。LPCALを用いた過去の偏光観測では、M87中心核の総輝度分布のピークと偏光度分布のピークがずれてしまい、その物理的成因は謎でした。一般的に、装置起因の偏光特性を較正するために、偏光構造が単純、かつ信号雑音比が高い偏光較正天体が用いられてきましたが、GPCALでは偏光較正天体の構造と装置起因の偏光特性の推定を反復的に求めていくことで、それぞれの精度を高めていく手法がとられています。今回、GPCALを用いて装置起因の偏光特性を更正した結果、LPCALで得られたようなピークのずれはなくなることが、確かめられました。この結果、非物理的な要因(装置起因)を排他し、天体由来の偏光特性を議論することができるようになりました。本結果はアメリカ天文学会の学術誌The Astrophysical Jorunalに掲載され[1]、今後、他の活動銀河中心核からの偏光観測に、GPCALが幅広く利用される可能性が示唆されます。
2019年、Event Horizon Telescope (EHT) Collaborationによる超大質量ブラックホールの影の電波像が公開され、昨年2021年にはM87中心核の偏光画像も発表され[2]、GPGALは偏光画像の解析に採用されています。この論文では、ブラックホールに吸い込まれる高温(数10億度程度)ガス降着流や磁力線構造の理解が進み、どのようにジェット噴流を生み出しているかという理論モデルに観測的な制限が加わりました。
[1]https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ac26bf
[2]https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/abe71d