塚本 直樹 特命准教授の一般相対論的天体の観測に関する理論的考察の研究成果2編がアメリカ物理学会の学術雑誌Physical Review Dに掲載されました。
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塚本 直樹 特命准教授の一般相対論的天体の観測に関する理論的考察の研究成果2編がアメリカ物理学会の学術雑誌Physical Review Dに掲載されました[1,2]。
論文内容要旨:
一般相対論で記述されるブラックホールは重たい星が自分の重力で潰れることで形成されると考えられていますが、重力崩壊する星の質量分布が完全な球対称である場合、ブラックホールの内側に時空特異点が作られることが知られていました。時空特異点では、物理量が無限大になって、一般相対論は破綻します。球対称という仮定を緩めれば、時空特異点の発生を避けることができると考えられていましたが、2020年にノーベル物理学賞を受賞したペンローズは、対称性がない場合でも、時空特異点が発生することを1965年に証明しました[3]。その後、重力崩壊に伴う時空特異点は必ずブラックホール内部に発生するという宇宙検閲官仮説がペンローズによって提案されましたが、宇宙検閲官仮説は一般相対論における重要な問題として、現在でも様々な観点から議論されています。
ブラックホールあるいは時空特異点を持つほど重力が強い時空では、光球と呼ばれる光の不安定円軌道が存在することが知られており、一般相対論的な強い重力場の観測的証拠として重要な役割を持ちます。本論文[1,2]では、塚本 直樹 特命准教授は質量と電荷を持つライスナー・ノルドシュトルム時空での光球付近の光の軌跡について詳しく調べました。ライスナー・ノルドシュトルム時空に着目する利点はいくつかあります。ライスナー・ノルドシュトルム時空は、電荷が小さい場合は時空特異点を内部に持つブラックホール時空を記述し、電荷が大きい場合はブラックホールに覆われていない時空特異点を持つ時空を記述するため、両者を比較するには都合がよいです。また、様々な理由で通常のブラックホール解を修正したブラックホール時空が提案されているのですが、そのような修正されたブラックホール時空で観測されうる光の振る舞いはライスナー・ノルドシュトルム時空の場合と似ていることが経験的に知られているため、ライスナー・ノルドシュトルム時空の場合を調べれば、他の時空の場合の傾向もだいたい予測できます。さらにいうと、ライスナー・ノルドシュトルム解は、質量だけを持つブラックホールでは起きない、ブラックホールからのエネルギーの引き抜きなどの興味深い現象を引き起こす解のうちで最も単純な解としても知られています。
一つ目の論文[1]では、光が光球によって反射される強い曲がり角極限において、光の曲がり角を解析的に得ることに成功しました。二つ目の論文[2]では、太陽系付近を通過する光球を太陽光の反射によって発見する方法を議論しました。ブラックホールがない場合の光球の方が、ブラックホールがある場合の光球よりも約2倍明るくなることを示しました。ただし、両者を区別するためには、光球までの距離を精度よく測定する必要があります。将来、この現象は特徴的な光度曲線を持つ変光現象として観測される可能性があります。
参考文献:
[1] Naoki Tsukamoto, Phys. Rev. D 104, 124016 (2021).
[2] Naoki Tsukamoto, Phys. Rev. D 105, 024009 (2022).
[3] Roger Penrose, Phys. Rev. Lett. 14, 57 (1965).
掲載された論文概要は以下のリンクから見ることができます:
https://doi.org/10.1103/PhysRevD.104.124016
https://doi.org/10.1103/PhysRevD.105.024009