塚本 直樹 特任助教のブラックホールの観測に関する理論的考察の研究成果がアメリカ物理学会の学術雑誌Physical Review Dに掲載されました。
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塚本 直樹 特任助教のブラックホールの観測に関する理論的考察の研究成果がアメリカ物理学会の学術雑誌Physical Review Dに掲載されました[1]。
論文内容要旨:
2019年4月にイベント・ホライズン・テレスコープの共同研究チーム(Event Horizon Telescope Collaboration)がブラックホール・シャドウという暗い領域とそのシャドウを取り囲む明るいリング像をもつM87のブラックホールの画像を公開しました[2]。(参照https://www.hachinohe-ct.ac.jp/info/2021/03/001341.php)ブラックホールは外部の観測者から観測できない領域として定義されているため、ブラックホール・シャドウを見ることは、ブラックホールを直接見ていることを意味しません。ブラックホール・シャドウの観測は何を意味しているのでしょうか。
天体から放出された光が地球に届くまでには時間がかかるため、天体を観測するということは天体の過去の姿を見ることに相当します。(例えば、太陽の光は地球に届くまで8分かかるため、我々はいつも8分前の太陽を見ていることになります。)よって、ブラックホール・シャドウの観測は、将来ブラックホールを作ることになる過去の天体の姿を観測することに対応していると考えられます。ブラックホール・シャドウがブラックホールの存在を直接的に示していなければ、ブラックホール以外の大質量でコンパクトな一般相対論的天体でもブラックホール・シャドウを説明できる余地が残ります。このような観点から、ブラックホールを妄信するのではなく、比較対象を用意することは実証科学として健全な態度です。
本論文[1]では、塚本 直樹 特任助教は通常のブラックホール、正則ブラックホール、ワームホールを表現するブラック・バウンス時空[3]での光の軌道について詳しく調べ、通常のブラックホール以外の場合でもブラックホール・シャドウを説明できる可能性があることを示しました。この研究は、ブラックホール・シャドウの観測からブラックホールと他の大質量でコンパクトな一般相対論的天体と区別するためには、将来の精密な観測やシミュレーションが必要であることを示唆しています。
参考文献:
[1] Naoki Tsukamoto, Phys. Rev. D 104, 064022 (2021).
[2] K. Akiyama et al. [Event Horizon Telescope Collaboration], Astrophys. J. 875, L1 (2019).
[3] F. S. N. Lobo, M. E. Rodrigues, M. V. d. S. Silva, A. Simpson, and M. Visser, Phys. Rev. D 103, 084052 (2021).
掲載された論文概要は以下のリンクから見ることができます:
https://doi.org/10.1103/PhysRevD.104.064022