我が部が電子制御回路に本格的に取り組み始めたのは1997年度のことです。市販のイグナイタを利用したフルトランジスタ式点火回路で、点火時期の調整は機械式でした。翌1998年度には、イグナイタ機能も包含した回路を開発しました。点火時期を半固定抵抗で調整できるように改めたもので、パワートランジスタを制御する信号は、主として複数のオペアンプと論理素子で作り出していました。どうしても部品点数が多くなってしまい、開発時には動作チェックに手間取りましたが、いったん完成してからはトラブルもなく、高い信頼性を誇りました。ただし、この回路以外の部分のマシンの信頼性が低く、点火時期を最適に調整する暇もない状況が続きました。ようやくこの回路の真価が発揮されるようになったのは、まとまった走行練習で点火時期をじっくり煮詰められるようになった2001年度のことでした。
点火時期調整の効果を実感したことから、点火回路の見直しに着手したのは2001年度の全国大会後のことでした。それまでの回路では、点火時期はエンジン回転数によらず一律にしか設定できませんでした。そこで、PICマイコンを用い、回転数に応じて点火時期を設定できるように改めるようにするとともに、サイクルメータ機能も持たせるようにしました(Ver.1)。しかし、ノイズ対策への配慮を怠っていたことから走行練習ではトラブルが多発し、その都度改良を繰り返したにも関わらず、遂に全国大会で使用できると判断される完成度には至りませんでした。このため、2002年度の全国大会は従来の回路で出場したのですが、大会直後から懸命に改良を続けて、とうとう2003年度の大会にはこの新型回路(Ver.2)でマシンを完走させることができました。ただし、ゴール後に点検してみると、折からの豪雨で回路を収めたケースの中は水浸しで、完走できたのが不思議なくらいでした。
こうしたことから、2004年度に向けて、全面的に改良しなおすことにしました。防水仕様にしたのはもちろんのこと、操作性や耐ノイズ性を向上させるため、従来は3分割されていた回路をフロントとメインの2系統にし、両者をシリアル通信でつなぐように改めました。信頼性を向上させるため、感光基板を用いるようにもしました。また、フルオートドライブモードも取り入れました。このフルオートドライブモードでは、ドライバーの操作はエンジンスイッチをスタートに入れるだけ済み、あとは各種アクチュエータが自動制御されるので、その分安全に対する配慮を払うことができるようになるとともに、走行練習での燃費データの再現性も著しく向上させることができました。この回路(Ver.3)は、マイナーチェンジを繰り返しながら、2009年までキャブレター用として使用してきました。ECU(Electronic Control Unit)と呼べるレベルになったのは、この回路からでしょう。
その後、2006年度には、我が部として初となる電子制御燃料噴射システムに対応した回路(Ver.4)を新開発しました。ベースはキャブレター対応回路ですが、より一層耐ノイズ性を向上させるため、シグナル系とパワー系を分離させているのが特徴です。一般的なソレノイド式の燃料噴射弁ではなく、ミクニ製ディスチャージポンプ(DCP)式燃料噴射弁を採用したため、参考となる資料が皆無で苦労も多く、機械系統も含めて不断の改良を余儀なくされましたが、ようやく2009年度になって、はっきりとキャブレター式よりも燃費の点で優位に立つことができるようになりました。
こうしたことから、2010年度には、キャブレター式だったNP号Uに、2007年にマイナーチェンジされたスーパーカブC50用の燃料噴射弁を用いたシステムを搭載することにしました。ただし、これまでキャブレター式とDCP式の2つの回路を並立させてきて、そのプログラムの改良に苦労させられてきたこともあって、スーパーカブ用の一般的なタイプとDCP式の両者に対応させるべく新型メイン回路(Ver.5)を開発することにしました。ところが、折から開発中のCFRPモノコック車両BG号のアッパーカウルがメイン回路の搭載性を考慮せずに設計されてしまったため、基板設計が完了した段階で白紙からの設計やり直しを余儀なくされ、設計着手から完成までに8ヶ月も要する有様となりました。
2011年度には、2009年度に導入し、2010年度から本格的に活用するようになったデータロガー機能を活かすべく、機能の拡充を行いました。また、広帯域空燃比センサの信号を利用したフィードバック制御も導入しました。2013年度には、エアー加圧式ダイヤフラムポンプシステムに対応させるとともに、フロント回路のディスプレイを、従来のキャラクタ式からグラフィック式に改めて、ドライバーが走行パターンをリアルタイムで確認できるようにしました。2014年度には、別体の燃圧制御回路を追加しました。
思い起こせば、我が部が初出場したときには、主催者から購入したエンジンに付随してきた回路をそのまま用いて、イグニッションキーを差し込み、それを時計回転させることでエンジンを始動していました。幾ら初出場とは言え、そこまで手抜きだったチームはほとんどなかったのではないでしょうか。でも、それはそれで良かったと考えています。まずは、苦労して作り上げたマシンを、完走に導くことです。その喜びが、次のステップに繋がると思うからです。回路をあれこれいじるのは大きなリスクを伴いますから、それからにしましょう。
なお、従来は本制御回路のことを、総合電子制御回路と呼んできましたが、今回の更新からECUと呼称することに改めました。
2022年12月13日 機能を更新しました
2022年2月9日 全般的に更新しました
2015年10月19日 「機能」を更新しました
2014年5月19日 「システム構成」及び「機能」を更新しました
2014年5月19日 一部のページを整理しました
2012年4月27日 「機能」を追加しました
2011年10月21日 全体を再編しました