ECU(電子制御ユニット)

システム構成

Ver.3 キャブレター対応ECU(2004〜2009年度)

台風にぶつかった2003年度の大会では、ECUが水浸しになり、完走できたのが不思議なくらいでした。そこで、2004年度に開発したVer.3では、操作性や耐ノイズ性を向上させるため、従来は3分割されていた回路を、ドライバーが視認、操作できる位置に置かれたフロント回路と、各種アクチュエータを駆動するメイン回路の2系統にし、両者をシリアル通信でつなぐように改めるとともに、メイン回路を防水仕様としました。また、キャラクタ式のLCD(液晶ディスプレイ)を見ながら、簡単なスイッチ操作で点火時期等の各種設定を簡単に変更できるようにしたのも特徴でした。なお、感光基板を使うようになったのもVer.3からでした。

2005年度型のシステム構成

Ver.4 DCP式電子制御燃料噴射対応ECU(2006〜2009年度)

2006年度に、我が部初の電子制御燃料噴射システムを導入するにあたって開発した回路です。制御回路は、従来のキャブレター対応回路を発展させたもので、ワンチップマイコンPICにより、燃料噴射だけでなく、点火系統なども一括して制御するようにしています。 メイン回路が防水仕様なのはキャブレター対応の従来型と同じですが、シグナル系とパワー系を分離させて、耐ノイズ性の向上を図っています。ただし、このためにDC/DCコンバータやフォトカプラなどを搭載しなくてはならなくなって基板面積が増大し、2層構造になってしまいました。

2009年度型のシステム構成

Ver.4の開発当初は、バッテリから直接噴射弁に電源を供給していたのですが、その後の実験で噴射量が電源電圧に鋭敏なことが判明し、大容量のDC/DCコンバータから電源を供給するように改めました。このやり方は、再現性重視の観点からVer.5でも受け継がれています。ただし、燃料ポンプで加圧するコンベンショナルな噴射弁では消費電流が劇的に小さくなりましたので、大幅に小容量化できました。

Ver.5 電子制御燃料噴射対応ECU(2010年度〜)

2010年度に、NP号Uの燃料供給方式を、それまでのキャブレター式から、スーパーカブC50用の噴射弁を用いた電子制御燃料噴射式に改めることに伴い開発した回路です。これまで、キャブレター式とDCP式の2つの回路を並立させてきて、そのプログラムの改良に苦労させられてきた経緯がありましたので、新型回路はスーパーカブ用の一般的なタイプとDCP式の両者に対応させることにしました。対応噴射弁は、フロント回路のスイッチ操作で簡単に切り替えられるようにしてありましたが、DCP式のマシンへの搭載は2011年度で打ち切りとしたため、その後駆動回路を見直して一般的なタイプ専用となりました。

2021年度型のシステム構成

図が複雑になるので、電源関係は省略しています。

2021年度型のフロント回路とスイッチボックスの配置

2018年度に、フロント回路のケースに直接取り付けられていたスイッチのうち、走行中に操作するものをハンドルの根本に取り付けられたスイッチボックスに移設し、ドライバーの操作性を向上させました。その際、フロント回路本体については、降雨時にケースの中に雨水が侵入して動作不良になることは考えにくかったものの、スイッチに水がかかって接触不良に陥る可能性は否定できなかったため、ケースは非防水仕様ながら、スイッチを防水使用に改めました(コネクタはVer.3から防水仕様)。一方のスイッチボックスは完全防水仕様になっています。

2021年度型のフロント回路とスイッチボックスの前面外観

2021年度型のフロント回路(上)と、スイッチボックス(下)のスイッチ配置

Ver.5になっても当初は、フロント回路のハード面に変更はありませんでしたが、2013年度になって、ディスプレイを従来のキャラクタ式からグラフィック式に改めて、ドライバーが走行パターンをリアルタイムで確認できるようにしました。写真のグラフの横軸は走行距離(単位はkm,レンジは1周分),縦軸は速度(単位はkm/h)で、水色で描かれているのは過去の全国大会の走行データで、走行中のデータは黄色で上書きされていくほか、前の周回のデータも紫色で表示されます。ドライバーはこれらを確認しながら、次の加速時のエンジン再始動速度と停止速度を判断していきます。また、加速が終了すると、空燃比の推移が一定時間表示される機能も備えていて、エンジンの調子を確認することができます。さらに、ゴール横に設けられた周回確認用のラインを通過した際にPUMPスイッチを押すと、経過時間やラップタイムなどが一時的に表示されるようにしてあります。なお、表示されるグラフは、表示モードの選択次第で変えることができ、走行練習モードでは地元での練習場における過去の走行パターンとの比較、シャシローラテストモードでは速度と空燃比の推移が表示されるようになっています。 

LCD MENUスイッチは、表示するデータの切り替え(9種類)を行います。上の写真は「全国大会表示」となっていますが、このスイッチを押すと、「暖気時表示」、「走行練習表示」、「シャシローラ表示」・・・「エラー表示」・・・「ラップ表示」のように画面が切り替わっていきます。例えば「暖気時表示」では、エンジン回転数、点火時期、油温、燃料噴射時間などを表示します。 グラフも空燃比と冷却用オイル温度に切り替わります。なお、「全国大会表示」、「走行練習表示」、「シャシローラ表示」になっている際に、DATA UP/DOWNスイッチを上げ下げすると、自動停止速度が0.5km/hずつ変わっていきます。

SETTING MENUスイッチは、設定値の変更に使います。このスイッチを押すと、「スロットル全開時1000rpm点火時期」、「スロットル全開時1600rpm点火時期」・・・「スロットル全開時1000rpm燃料噴射時間」、「スロットル全開時1600rpm燃料噴射時間」・・・「スロットル全開時空燃比目標値」・・・「燃圧目標値」・・・のように画面が切り替わっていきます。変更したい設定値の画面まで移ったら、DATA UP/DOWNスイッチを上げ下げすることで設定値を変更します。例えば点火時期なら、スイッチを1回上げ下げすることで、1゚ずつ設定値が上下します。

LOGGER MENUスイッチは、ロギングデータをPCに送信する際に使います。このスイッチを押しながら、制御電源スイッチONにすると、送信モードが起動します。また、通常起動時にこのスイッチを押していくと、PUMP manualスイッチの対象を冷却用ポンプ/燃料ポンプ/潤滑用ポンプの中から選択することができたり、シャシローラテストモードなど様々なテストモードのON/OFFを選択したりすることができます。

COUNTERスイッチは、文字どおりカウンタのSTART/STOP/RESET処理を担います。カウンタがSTARTするとロギングが始まり、エンジン動作時には約42ms毎、停止時には約655ms毎にデータが外付けEEPROMに書き込まれていきます。

2021年度型のメイン回路の外観

防水仕様や、シグナル系とパワー系の分離は、従来型を受け継いでいます。センサやアクチュエータが増えたことなどもあって、ケースは大型化し、基板も3層構造になってしまいました。また、機能を拡充するため、基板やケースは幾度も作り直してきたので、Ver.6とかVer.7と呼んでもおかしくないのですが、下段の基板だけは開発当初のままのため、Ver.5と呼称している次第です。

2021年度型の圧力制御回路の外観

圧力制御回路は、エアー加圧式ダイヤフラムポンプシステムにおいて、燃圧を制御するため、2014年度に追加しました。写真では見えやすい場所に移して撮影していますが、本来は右前輪のすぐ後ろに置かれています。このため雨天時には大量に雨水を浴びることになるため、完全防水仕様となっています。

使用してきたPICマイコンの変遷

本校チームのECUは、2001年度に初めて試作した段階(回路Ver.1、点火機能のみ)から、PICマイコンがその中核を担ってきました。下表は、使用してきたPICマイコンの変遷を示すものですが、Ver.12では、プログラムメモリ(ROM)やデータメモリ(RAM)の制約から、プログラミングには大変な苦労を強いられるとともに、当初目論んでいた機能を大幅に抑制せざるを得ませんでした。その後、メモリが増強されたPIC18F452が入手できるようになって、ECUの機能を増強できるようになりましたが、その後も、機能を拡張する都度、壁が立ち塞がりましたが、機能をアップしたPICマイコンが出回っていることを知って助けられたことも再三再四に渡りました。PICマイコンの製造元であるMicrochip Technology社の開発努力に敬意を表する次第です。

回路
Ver

対応燃料
供給方式

年式

フロント回路

メイン回路

圧力制御回路

型式

ピン数

ROM
[kbytes]

RAM
[bytes]

使用
個数

型式

ピン数

ROM
[kbytes]

RAM
[bytes]

使用
個数

型式

ピン数

ROM
[kbytes]

RAM
[bytes]

使用
個数

2

キャブレター

2003

PIC16F877

40

14

368

1

PIC16F877

40

14

368

1

 

 

 

 

 

3

キャブレター

20042009

PIC18F452

40

32

1536

1

PIC18F452

40

32

1536

1

4

DCP
燃料噴射

20062008

PIC18F252

28

32

1536

1

2009

PIC18F4620

40

64

3968

1

5

ソレノイド式
燃料噴射

2010

PIC18F2620

28

64

3968

2

20112012

PIC18F4685

40

96

3328

1

2013

PIC18F46K80

40

64

3648

1

20142018

PIC18F2620
PIC18F26K80

28
28

64
64

3968
3648

1
1

PIC18F26K80

28

64

3648

1

20192020

PIC18F26K80

28

64

3648

2

2021

PIC18F47K42

40

128

8192

1

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