我が部初の電子制御燃料噴射システムです。燃料噴射弁(フューエル・インジェクタ、Fuel Injector)には、ミクニ製ディスチャージポンプ(DCP)式燃料噴射弁を用いています。DCP式は、燃料ポンプが不要で、燃料系統の配管が高圧用でなくても済むことなどの利点を有していますが、燃料噴射弁上部から放出されるベーパーを逃がすための工夫が必要となります。このため、一般的な燃料噴射弁を使用した場合に比べて、どうしても燃料タンクの位置は高くならざるを得ません。また、バッテリ電圧に対する補償も複雑になる欠点があります。
2006年5月に電子制御燃料噴射システムを開発して以来、様々な実験を行ってきましたが,燃費性能の点ではキャブレター式に劣る結果しか得られませんでした。吸気管の途中に設置されるキャブレターと異なって、噴射弁は吸気ポート近くに設置されるため、混合気形成が不十分になっていることがその原因と推察されました。しかし、改良を続けた結果、2009年度には地元での走行練習でキャブレター式をはっきりと上回る燃費記録を示すようになったものの、全国大会での記録はほぼ同等にとどまりました。
ようやく、全国大会で結果を出せるようになったのは2010年度のことでしたが、この年、そして翌年と、全国大会時にスタート前の燃料微調整で、アイドリングを開始しても、燃料タンクの液面が下がるのに少し時間を要することが問題視されました。DCP式では原理的にエアが発生するので、どうしてもこうした症状が出るのは回避できません。それでも、その程度を抑制しようと燃料配管の見直しに普段の努力を傾注し続けましたが、燃料配管中のエアの抜けを幾ら良くしても、結局公式燃料タンク下部のスロート部にエアが滞留してしまうことは避けられないことが判明しました。公式燃料タンクの改造は無理ですから、2011年度の大会をもってDCP式からの撤退を決断せざるを得なくなりました。
システム構成
システム外観(2006年度型)
左側の黒いものがDCP式燃料噴射弁です。下側から燃料を供給し、上側からベーパーを逃がします。上に伸びている白い円筒形のものがエアクリーナ。その下に,ロータリ式の電子制御スロットルが設けられています。奥の円筒形の容器にはスロットルを駆動するステッピングモータ、右側の透明な四角い容器には位置決め用のロータリセンサが、それぞれ入れられています。
我が部では、初の電子制御燃料噴射システムとして、2006年度にNP号にDCP式を採用しましたが、上述したように、様々な欠点に苦しめられてきました。そこで、2010年度にキャブレター式だったNP号Uを電子制御燃料噴射化するにあたっては、電動ポンプで燃料を加圧する一般的な方式を採用することにし、噴射弁にはスーパーカブC50用のものを選びました。電動ポンプはFCデザインさんが提唱されていた間欠駆動としましたが、それでも夏の暑い時期になると気泡が大量に発生して燃圧が上がりにくくなったり、ポンプの発熱により燃温が上がってしまうなど、その対策には苦労させられました。
システム構成
システム外観(2010年度型)
中央の黒いものがスーパーカブC50用の燃料噴射弁です。
2013年4月に大会事務局より、「大会事務局が貸与するエアー加圧式ダイヤフラムポンプの使用を2014年度の大会から義務化する」との通知がありました。目的は、燃温上昇や気泡発生を抑制するためとのことで、上述したように電動燃料ポンプではこれらの問題で苦しんでいたため、すぐに貸与を申し込みました。7月末に届くと、さっそくマシンに取り付けてみましたが、気泡の発生が大幅に抑制されたことは確認できたものの、疑問点も少なからずありました。しかし、大会まで残された期間が約2ヶ月しかなかったため、その評価を十分に行う暇はありませんでした。
そこで大会直後から、このシステムの評価実験に着手したのですが、そこで判明したのは、事務局推奨のエアーレギュレータの精度や応答性の問題でした。1次(ペットボトル)側の空気圧が低下していくと、次第に2次(ポンプ)側の空気圧が上がっていくのですが、その度合いがかなり大きいことでした。また、2次側空気圧が同じでも、ポンプ内の燃料が減っていくと、燃圧が次第に低下していることもわかりました。そこで、こうした問題点を解決するため、本校チームでは新規に圧力制御回路を開発して対応することにしたのでした。
大会事務局推奨システム
2013年度の全国大会にはこのシステムで臨みました。
大会事務局推奨システムでの応答例
機械式レギュレータの圧力調整用つまみは固定したまま、1次側空気圧Pa1の初期値を変えて、シャシローラ上で発進加速させた際の応答例。横軸はエンジンSTARTスイッチを押してからの経過時間。加速期間を通じて、Pa1の初期値が433kPaの方が、2次側空気圧Pa2、燃圧Pfとも約10kPa高くなっています。2秒ぐらいのところで、2次側空気圧Pa2、燃圧Pfともピークまで回復していますが、それ以降はポンプ内の燃料が減っていくにつれて燃圧Pfは低下していき、エンジン停止直前にはピーク時に比べて10kPa前後下がっています。
2014年度に開発した圧力制御回路を組み込んだシステム
機械式レギュレータの代わりに電磁バルブを取りつけ、それを微小パルス駆動することにより2次側空気圧Pa2、ひいては燃圧Pfを制御するようになっています。
圧力制御回路を組み込んだシステムでの応答例(上)と、Pa1の初期値が475Paの場合の加速初期の電磁バルブの駆動の様子(下)
本校チームがこうしたシステムを開発することになったきっかけは、台上試験時や実車走行練習時の空燃比応答が、それまでの電動燃料ポンプ使用時に比べてかなり異なってきたことによります。例えば、2013年度の全国大会決勝では、スタート前待機エリアで暖気していたBG号が、燃料微調整エリアに進むようにオフィシャルから指示された後、エアータンクに空気を注入したところ、アイドリングができなくなる事態に見舞われ、原因がわからないまま、機械式レギュレータの圧力調整つまみを回して2次側空気圧を上げて、何とか始動できるようにしたことがありました。ただし、走行中の空燃比制御は乱れっぱなしで、電動燃料ポンプを用いていた前年度までとは大違いでした。
このため、大会直後から様々なセンサを取りつけていろいろと調べていくと、上述したような結果が得られました。BG号のトラブルは1次側空気圧を上げると2次側空気圧、ひいては燃圧も下がって、燃料噴射量も少なくなってしまうことを知らなかったことによるものでした。こうしたことから本校チームでは圧力制御回路を開発することにしたのですが、その目的はこうしたトラブルを防ぐとともに、日常的に行っているシャシローラテストでの再現性を向上させることによって、仕様比較の精度を向上させるためで、直接的に燃費性能を上げることを目的としたものではありませんでした。
もっとも、大会事務局推奨仕様でも、以下の点に留意すれば、ある程度の再現性は確保できるものと思われます。
(1)機械式レギュレータの圧力調整つまみは、一度調整したら動かさない・・・エンジンが始動できなかったり、調子が悪いときの空燃比の調整は、燃料噴射時間の変更で対応する。
(2)スタート前には、1次側空気圧が決められた値になるように空気を充てんする・・・確認しやすいブルドン管をつけておくことが望ましい。
なお、全国大会では長時間の走行となるため、次第にエンジン温度が低下していくので燃料噴射量を増やしていかなければなりませんが、機械式レギュレータではエアータンク内の空気を消費していくのに伴って燃圧が上がっていきます。このため、燃料噴射時間が固定されているシステムでも噴射量自体は少しずつ増えていくことになりますから,エアータンクの容量次第で、ある程度バランスを取ることができるのかもしれません。これは、あくまで推測に過ぎませんが・・・。
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