エコラン(省燃費競技、省エネカーレース)とは、決められたコースにおいて一定の距離を走行し、いかに消費した燃料が少ないかを競うもので、我が部が出場している「Hondaエコ マイレッジ チャレンジ全国大会」(2009年度までの大会名称はHondaエコノパワー燃費競技全国大会)は、約500チームが参加する国内最大規模の競技会です。この大会の主なルールは、以下のとおりです。
大会会場の「ツインリンクもてぎ」
2010年度に開催された主な国内大会は下表のとおりです。エントリー台数は、インターネット上に公開された情報を基に推計したものですので、間違いがあるかもしれません。また、この他にも国内大会があるかも知れませんが、インターネットでの検索で見つけられなかっただけで、ここに掲げなかったのは他意があるわけではありません。この点御容赦下さい。
これらの大会のうち、我が部が出場したことがあるのは「Hondaエコ マイレッジ チャレンジ全国大会」だけです。1999年度に1回だけ「Hondaエコノパワー燃費競技東北大会」に出場したことがありますが、エントリー台数が少な過ぎたためなのか、数年前になくなってしまいました。1992年度に初代JT号を開発していた頃は、いつかは鈴鹿サーキットで開催されていた「マイレッジマラソン」に出場したいものと考えていましたが、2000年度を最後にこの大会も幕を閉じてしまいました。鈴鹿では現在、「Hondaエコ マイレッジ チャレンジ鈴鹿大会」が開催されていますので、「いつかは」という思いはありますが、ここ八戸からは遠過ぎて、いまだに果たせずにいます。もっとも、我が部のマシンは「ツインリンクもてぎ」や地元の練習場の平坦なオーバルコースを想定して開発されていますので、難コースと言われている鈴鹿で完走できるのか定かではありません。また、超一流チームが参戦している「Supermileage Car Challenge Hiroshima 」も憧れの存在で、ぜひ一度出かけて勉強させていただきたいと願ってはいるものの、鈴鹿よりも遠方で、遠征旅費の工面がつく見通しが全く立ちません。
以上のようなことから、我が部にとって、「Hondaエコ マイレッジ チャレンジ全国大会」は、年に1回だけ、自分たちの努力の成果を試すことができる場になっています。
大会 回数 |
大会名 | 開催日 | 会場 |
規定 走行距離 (km) |
規定 平均速度 (km/h) |
エントリー 台数 |
21 | NATS杯省エネカー競技会 | 6月5、6日 |
千葉県成田市 日栄学園・NATSサーキット |
12.135 | 24 | 26 |
24 |
Hondaエコ マイレッジ チャレンジ 鈴鹿大会 |
6月19日 |
三重県鈴鹿市 鈴鹿サーキット・東コース |
17.616 | 25 | 114 |
14 | Supermileage Car
Challenge Hiroshima |
8月21、22日 | 広島県広島市 広島県運転免許センター・高速体験コース |
18.513 | 25 | 14 |
2 |
Hondaエコ マイレッジ チャレンジ もてぎ大会 |
8月28日 |
栃木県茂木町 ツインリンクもてぎ・西コース |
14.610 | 25 | 75 |
5 | かながわエコカー競技大会 | 8月28日 |
神奈川県横須賀市 日産自動車追浜工場・GRANDRIVE |
16.4448 | 25 | 18 |
4 | エコマラソン長野 | 9月18、19日 |
長野県長野市 エムウエーブ |
? | ? | 30 |
21 | 手作り自動車省燃費競技大会 | 9月20日 |
宮城県仙台市 宮城県運転免許センター |
? | ? | ? |
19 |
茨城県高等学校 省エネカー燃費競技大会 |
9月26日 |
茨城県ひたちなか市 日立オートモティブシステムズ・テストコース |
約10 | 25 | 13 |
30 |
Hondaエコ マイレッジ チャレンジ 全国大会 |
10月9、10日 |
栃木県茂木町 ツインリンクもてぎ・スーパースピードウエイ |
16.389 | 25 | 449 |
10 | Econo Power in Gifu | 10月31日 |
岐阜県加茂郡坂祝町 日本ライン自動車学校・特設コース |
5.672 | 20 | 41 |
18 | 静岡県高校生エコラン大会 | 11月13日 |
静岡県静岡市 静岡県静岡自動車学校静岡校 |
? | ? | 9 |
26 |
Hondaエコ マイレッジ チャレンジ 九州大会 |
11月20、21日 |
熊本県菊池郡大津町 HSR九州・サーキットコース |
6.970 | 25 | 45 |
注1.電気自動車等の競技も併催される大会については、エンジン・エコランのエントリー台数を記載。
注2.「Hondaエコ マイレッジ チャレンジ」は、2009年度まで「Hondaエコノパワー燃費競技」。
ガソリンエンジンは一般に、スロットル(アクセル)開度が大きい程、正味熱効率*1が大きくなります。このため、燃費を良くするには、エンジンをスロットル開度が大きい条件でのみで動かすようにすれば良い*2のですが、そうした条件でエンジンを回し続けていると、必要以上に速度が上昇してしまいます。
そこでエコランでは、下図に示すように、スロットル開度の大きい条件でエンジンを動かして加速し、上限速度まで達するとエンジンを停止して惰性走行に移り、下限速度になると再びエンジンを始動して加速を始めるという走行パターンが使われます。
注*1 正味熱効率とは、供給した燃料が本来持つ発熱量のうち、クランクシャフトから取り出せる仕事(正味仕事)の割合。正味仕事は、燃焼ガス(の圧力)がなす図示仕事から、吸排気バルブの駆動などに要する機械摩擦損失仕事を引いたものなので、正味熱効率を向上させるためには、燃焼そのものの改善だけでなく、各部の摩擦損失の低減も図る必要があります。
注*2 このような条件でのみエンジンを動作させて燃費を低減しているのが、トヨタのハイブリッドカー「プリウス」です。「プリウス」では、アクセルを余り踏んでいない条件では、エンジンを動作させず、電気モータで駆動するようにしています。また、それよりも少し踏み込んだ程度では、ドライバーが要求している加速度に応じてエンジンを動作させてもまだ熱効率が低いので、要求加速度を発生させるよりも大きなスロットル開度でエンジンを動作させ、余剰分で発電機を回してバッテリの充電に当てています。
加速と惰性走行を繰り返す走行パターンの一例
燃費の良いことを標榜している市販車の広告などを見ていると、「エンジンの改良により燃費を向上させました」といった文言が並んでいます。このため、エコランカーの燃費はほとんどエンジン性能で決まってしまうと考えていらっしゃる方が多いようですが、それは違います。
我が部が1993年度に初出場したときの記録は200km/L程度でした。エコランの世界記録は現在4000km/Lにも達していますが、世界記録チームのマシンのエンジンの正味熱効率が、当時の我が部の20倍にも達しているのでしょうか。当時、ガソリンエンジンの正味熱効率は、最良の条件で運転した場合に30%強と言われていました。当時の我が部は、燃費の良さで知られていた「スーパーカブ」のエンジンを全くいじらず使用していましたが、スロットルを絞って運転していましたし、整備も全くしていませんでした。その分を差し引いて、仮に10%にまで悪化していたと仮定しても、その20倍と言うと200%の正味熱効率になってしまいますが、そんなことは物理法則の上からあり得ません。では、何が20倍もの燃費の違いを生んだのでしょうか?
平地走行時の燃費(km/L)は、細かい点を省略すれば、以下の式で表すことができます(∝は比例という意味です)。
このうち、転がり抵抗と空気抵抗は、
で表されます。25倍もの燃費の違いは、エンジンの正味熱効率の違いもあったでしょうが、これらの2つの抵抗の差によるところが大きかったのです。
このうち転がり抵抗は、車両質量mに比例するので、軽量化が重要なことはすぐに見て取れます。しかし、無理に軽量化すると、車両の剛性不足で走行車輪のアライメントが狂って、かえって転がり抵抗係数μrが増えて転がり抵抗が悪化するばかりか、信頼性の低下からリタイアの危機を招来してしまいます。我が部でも過去に無理な軽量化で辛酸をなめた経験があり、剛性確保を最重要視する姿勢を再び取り戻してから、燃費記録も向上するようになりました。ただし、毎年のように軽量化のための地道な努力を積み重ねてきてはいるものの、我が部のマシンは大会に出場している幾多のマシンの中でも相変わらず最重量級クラスのままで、この点で技術力不足は否めず、こうした状況を打開するために始めたのがカーボン化プロジェクトなのです。
これに対して、転がり抵抗係数μrは、タイヤをエコラン専用仕様のものとし、チューブも一般的なブチルゴム製からウレタン製に換装するなどの対策である程度までは簡単に減らすことができます。ただし、パンクしやすくなりますので、走行練習前に路面を清掃することは不可欠です。またトップチームでは、リム幅を拡大することにより、一層の転がり抵抗係数μrの低減を図っています。
一方空気抵抗は、市販車では高速道路走行時に関係するぐらいに認識されていますが、エコランでは車両質量が小さいため、転がり抵抗に比べて空気抵抗が相対的に大きく(車両質量が小さい自転車で、乗車姿勢によって走行抵抗が大きく変わるのと同様です)、大会での平均速度25〜30km/hでは両者は同等レベルになると言われています。空気抵抗低減のためには、抗力係数Cdを減らすことが本質的だと思いますが、手作りが基本のエコランでは幾つもバリエーションを試作して比較するわけにもいきません。また、抗力係数Cdが低減できそうな形状のカウルを製作するためには、それに応じたシャシの設計も含めて、それなりの技術が要求されます。このため我が部では、形状の改善よりも前面投影面積低減を優先させてきました。それには、ドライバーの乗車姿勢を安全な視界が確保できる範囲でできるだけ寝かせるようにするとともに、フルカバードタイプならばトレッドを狭くすることが肝要です。
それらに比べてエコランカーの主役と思われているエンジンはどうでしょう。ベースとなる市販車のエンジンはそれなりの完成度を持っていますから、やみくもにいじっても燃費が低減されるわけではありません。試行錯誤的にいじることで学ぶこともあるでしょう。何より、我が部が出場している「Hondaエコノパワー燃費競技全国大会」の大会要項には、「独創的なアイデアと技術を競う研鑽の場である」と謳われているぐらいですから、それはそれで一概に否定しません。しかし、いじればトラブルは発生しやすくなります。それでも、いじった方のメリットが大きいと判断できる場合に、いじるようにすべきではないでしょうか。シャシやカウルがいかに素晴らしいものであっても、エンジンが動かなければどうにもなりません。
我が部がエンジンに初めて手を入れたのは2年目の1994年度のことでした。ほんの少し手を入れただけだったにもかかわらず、全国大会2日目の決勝スタートの1時間前になってもエンジンが始動できない非常事態に見舞われました。以来、エンジンに手を入れれば入れるほど、全国大会でトラブルが発生する頻度は増し、その程度も深刻になっていきました。こうした苦い経験から、我が部でやっている改造は、下の「エコランカー特有の技術」で列挙していることぐらいにとどめてきました。それに見合う技術がないまま、ポテンシャルを引き上げるためにエンジンを改造してリスクを負うよりは、改造は程々にしてポテンシャルを引き出すことを重視してきたのです。そのためには、調整のやり易さはもとより、調整した結果を再現性良く引き出すためのドライバーの負担の軽減が欠かせません。そうした姿勢で行き着いたのが電子制御化です。しかし、改良を繰り返すうちに、エンジン・エコランとしてはやりすぎのレベルに達してしまいました。電子制御化が我が部の燃費記録向上の一因であったことは確かですが、決してお薦めしません。継続的に電子制御回路をメンテナンスできる体制が保証されていなければ、かえって足を引っ張る要因になってしまうからです。
以上のように燃費低減には、エンジン・駆動系統の効率だけでなく、転がり抵抗、空気抵抗の3要素がいずれも重要です。払った努力に対する効果は経験的に3要素とも同等レベルではないかと推察しています。
また、これらの3要素を追求してポテンシャルが高いマシンを開発したとしても、最後にものを言うのは整備力です。我が部のような学生チームでは毎年メンバーが少しずつ入れ替わっていきますから、整備力の維持は大きな課題で、それが十分でないと、すぐに燃費記録に跳ね返ってきてしまいます。全国大会前の地元での走行練習を例にとると、整備不良で最大30%程度燃費記録が悪化した例は枚挙に暇がないほどですし、アイドリングすらできずに走れなかったこともありました。そこがエコランの難しさでもありますが、面白さでもあるのです。
以下、エコランカーで燃費を良くするためにしばしば用いられている技術を御紹介します。過去に我が部で採用した経験のあるものに限りましたが、これらをいっぺんに取り入れれば素晴らしい燃費記録が出るというものではありません。他チームの後追いだとしても、それなりに自ら工夫して新機構を開発するのは簡単ではありません。しかしそれ故に、上手く動作したときの喜びは何物にも代えがたいもので、それこそエコランの楽しさの原点だと思います。その一方で、機構をひとつ追加すれば確率的に間違いなく信頼性は下がりますし、一般にドライバーの負担も増加して、リタイアの危険性は高まります。悩ましい限りですが、そこは、それぞれのチームが追い求めるコンセプトに応じて、道を選択していくしかありません。しかし、それを自由に選択できるのもエコランの良いところではないでしょうか。
エコランカーでは前2輪、後1輪の配置とし、後輪駆動とするのが一般的ですが、駆動輪のハブとしては、自転車の後輪用のものが用いられる場合がほとんどです。しかし、後輪ハブにはワンウエイクラッチが内蔵されているため、惰性走行時にはそれがカチカチと音を鳴らしながら動き続けて、転がり抵抗を大きくしてしまいます。そこで、そうした損失を防ぐために、後輪ハブに後輪スプロケットを固定することなく、両者の間にドグクラッチを設けるなどの工夫が払われるのが通例です。
この機構を私たちが初めて取り入れたのは1998年度。クラッチが入った瞬間の衝撃による歯の変形が尋常のレベルではなく、大会直前に歯厚を増す設計変更を余儀なくされました。またその後も、後輪スプロケットが軸方向に動く構造だったため、チェーンのテンション調整が難しく、走行練習段階でチェーン外れも経験しました。このため2002年度に、シマノ製内装式変速ハブの内部を改造して、ワンウエイクラッチが自然に動作するモードと、強制的にワンウエイクラッチをoffにするモードとが切り替えられる機構に改めました。当初は手動でしたが、翌年に電動化しました。
ただし、軸受がカップ&コーン式で、構造も複雑なことから、その最適調整は難しく、整備担当者が代替わりする都度、困難に直面してきました。そこで、2012年度から、機構そのものは従来型を踏襲しつつ、ハブを自作化して、軸受をカートリッジ式(深溝玉軸受)に換装した機構に改めました。
なお、2009年度に路面状況が良好な練習場をお借りできることになったのを機に、シマノ製ハブをベースとした機構の効果を調べてみたのですが、結果は5%弱に過ぎませんでした。この機構を導入したのは2002年度でしたが、そのときに比べて走行抵抗(転がり抵抗+空気抵抗)は半分程度になっているものと推測されましたので、導入当時の効果はたかだか2〜3%程度に過ぎなかったことになります。また、シマノ製ハブをベースとした機構では、ワイヤーが切れてしまったり、調整が狂ってしまうと、クラッチがonにならなくなって、リタイアを余儀なくされるリスクも負います。このように、リスクの大きさに比べると効果は余り大きくないことから、後輪ドグクラッチ機構を採用していないトップチームも多々あります。
内装式変速ハブをベースとした後輪ワンウエイクラッチon/off機構の外観(2009年度型NP号)
市販車では、点火プラグへの通電を停止することにより、エンジンを停止させています。しかし、通電を止めてからも、惰性でエンジンはしばらく回り続けます(2009年度に導入したデータロガーでの測定結果によれば約2秒)。この間、シリンダ内に吸入される燃料(混合気)は、燃焼することもなく、ただ排気管へと流れていくだけで全くの無駄となってしまいます。市販の自動車ではエンジン停止頻度は少ないので、こうした燃料の無駄遣いの影響は微々たるものですが、エコランでは頻繁にエンジンの始動停止を繰り返すため、その影響は無視できません。このためエコランカーでは、吸気バルブの動作を強制的に休止させることにより、混合気そのもののシリンダ内への吸入を停止させ、ひいてはエンジンを停止させる方式をとるのが通例です。一般には、吸気ロッカーアームを、カムシャフトの軸方向に沿ってスライドさせるという簡便な機構を採用する例が多いようです。なお、電子制御燃料噴射方式の場合、燃料噴射を停止することによりエンジンを止める方式がとられるため、吸気バルブ休止機構は不必要となります。
この機構を私たちが初めて取り入れたのは1998年度。当初は操作性の悪さからドライバーに多大の負担を強いることになりましたが、2003年度に全面改良して以来高い信頼性を誇ってきました(ワイヤーは年1回ぐらいのペースで交換する必要があります)。しかし、2008年度になってカムシャフトの偏磨耗というトラブルに見舞われました(全国大会ドキュメントの2008年度参照)。
吸気バルブ休止機構の内部構造と外観(2004年度型EG号)
エコランカーの燃料供給装置として最も多く使われているキャブレターには、余分な燃料が流入しないようにフロートと連動するニードルバルブが設けられています。しかし、キャブレターのフロート室内の燃料が十分でも、振動のためフロートが上下してしまえば、ニードルバルブも開閉を繰り返し、余分な燃料がフロート室に流れ込んでしまいます。私たちが出場している「Hondaエコ マイレッジ チャレンジ全国大会」では、走行前後の燃料タンクの重量差から燃費を算出するトップアップ式と呼ばれる計測方法をとっているので、フロート室内に余分な燃料が流入してしまうと、その分燃費の計測結果は悪化してしまいます(例えば燃料タンクが10g軽くなっていたものの、1gはフロート室に滞留していたということがあり得ます。この場合、本当の燃料消費量は9gですが、大会での燃費記録は10g消費したということで算出されてしまいます)。このため、燃料タンクとキャブレターの間に電磁バルブを設け、惰性走行中はこのバルブをcloseして、余分な燃料が流れ込まないようにする工夫が考案されており、多くのチームがこれを採用しています。
この機構を私たちが初めて取り入れたのは2008年度(NP号Uのページ参照)。目的は走行練習段階での燃費計測の再現性向上で、その効果は絶大でしたが、それでも電子制御燃料噴射式に比べると、データのばらつきは大きく、車体各部の改良の効果を推し量ることができないことから、2009年度の大会をもってキャブレター式から撤退しました。
燃料カット用電磁バルブはアルミ合金製のステイで支持されています(2008年度型NP号U)
燃焼に時間を要すると、その間にどんどんピストンが下降していくので、シリンダ内の容積が増してしまって圧力が上がらず、有効にエネルギを取り出すことができなくなってしまいます。このため、点火プラグを2個に増やすことにより(ツインプラグ化),火炎伝播距離を短くして燃焼期間を短縮し、熱効率を向上させる方式がしばしば用いられています。この方式はごく稀に市販車でも用いられており、エコランカー特有の技術とは言えませんが、採用割合から考えると、エコランカー特有の技術に加えても良いと思われます。
私たちが始めてツインプラグ化したのは1995年度。しかし、それ以来、ピストンとプラグがぶつかるトラブルに再三見舞われてきました。この点の入念なチェックが欠かせません。また、プラグ穴の追加工は失敗しやすいので、事前の十分な検討が必要です。
追加工した穴にプラグを差し込んで確認している様子と、仕上がり。
一般にベースとなるエンジンには機械式のオイルポンプが設けられていますが、オイルポンプの駆動にも幾らかの動力は消費されますから、燃費にはマイナスとなります。また、一般にベースエンジンは横置きなので、ホイールペース短縮などの目的から縦置きに改めると、ポンプを使えなくなってしまいます。そこで考案されたのが方式です。エコランではエンジンは断続的に運転され、しかもその運転時間は短いことから、完走するまでに供給すべきオイルの量はさして多くはありませんので、一定量のオイルをタンクに溜めておいて、それを重力落下式でエンジン各部に供給することができれば(電磁バルブを設けてエンジン運転時のみ供給するようにしているチームもあります)、オイルポンプをなくすことができ、燃費記録の向上にも繋がります。このため、多くのチームで採用されています。
私たちが始めて滴下式を採り入れたのは1996年度でした。エンジンを縦置きにするとともに、クランクケースの一部を切除したために、オイルポンプが使えなくなったことがきっかけでした。しかし、深い思慮もなく滴下式に移行したため、必要な箇所にオイルが行き渡っているとは言い難く、エンジンの信頼性の大幅な低下を招いてしまいました。サービスマニュアルさえきちんと見ていれば、どこに供給すべきかは一目瞭然だったのに、それを怠っていたために見舞われたトラブルでした。その後、私たちは電動ポンプによるオイル供給方式に改めましたので、滴下式のノウハウは持ち合わせていません。
市販車では、燃焼室周りを上手に冷却することによって、ノッキングと呼ばれる異常爆発への耐性を高め、点火時期を最適化することが燃費低減のポイントとなります。しかしエコランでは、エンジンを動かしている時間が短いことから、エンジン停止中にいかに冷やさないようにするかが重要となります。このため、冷却フィンを切除したり、シリンダヘッドや吸気管などを断熱材で覆ったりするなどの改造が講じられのが一般的です。特に、シリンダやシリンダヘッドの冷却フィンの切除は、軽量化にもつながることから、ほぼ全てのチームが実施しています。また、燃焼室近辺に水やオイルを溜める空間を設けることにより、熱容量を大きくして、温度変化を抑制するようにしている例も多いようです。
保温のみに重点を置きすぎて、冷却をおろそかにすると、暖機運転時にオーバーヒートになってしまいます(全国大会ドキュメントの2001年度参照)。そこで、現在では潤滑用と冷却用の2個の電動ポンプを用いるシステムに改めていますが、それからもポンプが動作不良に陥ってオーバーヒートになったこともあります(全国大会ドキュメントの2006年度参照)。
この外側にレジャーマットを巻きつけます(2008年度型NP号)
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