NP号U(2007〜2012年度)

NP号Uとは

NP号Uは、2006年度の全国大会をもって引退することになったEG号の後継機として開発したマシンです。開発にあたっては、

  1. シャシはNP号をベースとするが、NP号でやや不足していた剛性の向上を図る

  2. NP号では2次元的な曲面でキャノピーを構成していたが、これを3次元曲面まで拡張することにより、より流麗で空気抵抗の小さいカウルとする。

  3. 燃料供給装置は、キャブレターと電子制御燃料噴射弁とを実車走行で比較して選定する。

という方針で臨みました。また、ベースとなったNP号2006年度の全国大会で936km/Lを記録し、近いうちに1000km/Lには到達すると判断されていましたので、NP号Uの目標には「余裕を持って1000km/Lをクリアする」ことを掲げました。

開発に着手してから半年後の2007年3月にはシャシが完成。カウルの設計も3月には終えて、4月には本格的にオス型の製作に入りました。前年度にNP号のカウルを製作したときに比べると、約2ヶ月早いペースでした。しかし、より精度の高いものを作ろうとしたが故に、製作は遅れがちになり、その上7月中旬には麻疹のため1週間学校が閉鎖されるというアクシデントも重なって、完成は8月下旬までずれこみました。また、燃料供給装置も、走行練習でエンジンや駆動系統の整備不良に起因するトラブルが頻発したため、キャブレターと電子燃料噴射弁とをきちんと比較する余裕がなくなり、見切り発車的にキャブレターとせざるを得ませんでした。

新開発したカウルも含めた全装備での試運転は8月29日。カウルには全く問題がなかったものの、エンジンの不調で燃費記録はいまひとつ。今度こそと万全の整備に余念がありませんでしたが、9月に予定していた3回の走行練習は、いずれも練習場が使用できなくなって中止になり、セッティングを煮詰めることはできませんでした。しかも、全国大会出発の3日前の校内走行では、後輪クラッチ機構が大破し、エンジンも絶不調という有様。何とか整備し直して、出発前日にとりあえず走れることだけは確認しましたが、記録への期待は全く持てないまま全国大会に臨むことになりました。ところが大会初日の公式練習ではトラブルもなく1226km/Lを記録。走行練習で一度もその真価を発揮することがなかっただけに、驚くしかありませんでした。しかし、世の中そう甘いものではありません。2日目の決勝では整備力不足の実力がそのまま反映され、トラブルに見舞われました。それでも何とか1133km/Lを記録し、長年の夢だった1000km/L突破を達成することができました。

2008年度は、以下の改良に取り組みました。

  1. 転がり抵抗低減のためワイドリム化(20×2.125)と、TGMY Ashida製20インチワイドリムタイヤへの換装。

  2. 前年度アバウトな設定のまま全国大会に臨まざるを得なかったキャブレターの再調整。

  3. 断熱塗料+耐熱パテによるエンジンの断熱強化(シリンダヘッド&シリンダ)。

  4. フリクションロス低減のため、シリンダにWPC処理&モリブデンショット。

  5. 走行練習におけるデータの再現性確保のため、燃料カット用電磁バルブの設置。

  6. カーボン化プロジェクトの第1弾として、既存のメス型からCFRP製カウルの新製作。

  7. カーボンモノコック車開発の予行演習として、シート、背もたれ、ヘッドレストのサンドイッチ構造化。

これらの改良のうち、想像をはるかに超えて難敵だったのがCFRP製カウルの製作。失敗に失敗を重ねた上、ようやく残るは塗装のみという段階に達した7月21日の走行練習では、マシンがコースアウトして大破する非常事態。CFRP化による重量軽減などそっちのけで、何とか全国大会に出場させるべくパッチ当て、パテ盛による補修で対応せざるを得ませんでした。それでも、8月28日の走行練習では、練習場における前年度の記録を更新して、その後に期待を抱かせました。しかし、全国大会直前の9月29日、10月5日の走行練習では、過去に経験したことのない類のトラブルが続発して、まともなデータは得られませんでした。ただし、これらのトラブルが全国大会で発生したとしたら、完走は間違いなく無理だったでしょう。その点では幸いだったと考えるべきで、その対策を十分とは言えないまでも、ある程度講じた上で、全国大会に臨むことができました。

にもかかわらず、全国大会初日には新たに後輪クラッチが入らなくなるトラブルに見舞われました。原因を究明できないまま迎えた2日目の決勝では、幸いトラブルは発生しなかったものの1079km/Lの記録にとどまり、チーム記録更新はなりませんでした。

2009年度は、以下の改良に取り組みました。

  1. 前年度に走行練習で破損したシャシのフロントオーバーハング部の修復。

  2. 前年度不本意なできのまま大会出場を余儀なくされたCFRP製カウルの再製作。

  3. 前年度の全国大会で動作不良が発生した後輪クラッチ機構のソレノイドの換装(吸引力強化)。

  4. 旋回時の走行抵抗を減らすため、ナックルアーム及びタイロッドの改良。

  5. 断熱塗料+耐熱パテによるエンジンの断熱強化(クランクケース)。

しかし、地元での走行練習ではトラブルが相次いだため、まともに走りこむことができず、2007年度に開発して以来の、地元での練習では安定した力を発揮できないという悪癖をこの年も克服できませんでした。しかも、全国大会直前にはエンジンが絶不調に陥って、整備をやり直して組み直したのは、大会出発前日という有様でした。

全国大会では、公式練習で1236km/Lを記録しましたが、走行パターンを変更して臨んだ決勝ではそれが仇となってタイムオーバーのため失格となりました。

2010年度は、以下の改良に取り組みました。

  1. スーパーカブ50用の噴射弁を用いた電子制御燃料噴射化と、それに伴う総合電子制御回路のフルモデルチェンジ。

  2. 吸排気系統の見直し。

しかし、BG号の開発に工数を取られて、ようやくエンジンを回せるようになったのは8月上旬のことでした。初の走行練習も8月23日と、新開発でもないのに、これほど遅れたのは2003年度のEG号以来。全くの白紙状態から燃料噴射時間を調整しなければならないにもかかわらず、全国大会まで残された時間はわずかで、一時はキャブレータ式に戻すことも考えざるを得ませんでした。そうした中で威力を発揮したのがデータロガー機能。空燃比センサの出力信号も取り込めるようにしたため、従来よりも遥かに効率的に燃料噴射時間の調整を推し進めることができました。その結果、全国大会前最後の走行練習となった9月27日には、前年度最終盤の燃費記録を10%程度更新しました。しかし、その一方で、トラブルは頻出し続け、ようやくトラブルをほぼ根治できたのは全国大会前一週間前のことでした。

全国大会は初日から雨に見舞われましたが、2日目の決勝スタート時には雨も上がって、路面は乾きつつありました。そんな中、NP号Uは順調に周回を重ねていきましたが、6周目にパンクのためリタイア。2年連続で記録を残すことができませんでした。

2011年度は、前年度の全国大会で本校チーム初となるCFRPモノコック車両BG号をデビューさせたことにより、2007年度後半から工数と資金の大半を投入してきたカーボン化プロジェクトが一段落したことから、久しぶりにエンジンの本格的な改良に取り組むことにしました。主な改良点は、

  1. 熱害対策(センサの断熱、シリンダヘッドの潤滑強化など)。

  2. エア滞留削減のための燃料配管の見直し。

  3. データロガー機能の強化。

  4. 空燃比センサを用いたフィードバック制御の導入。

  5. IRC製エコラン用タイヤへの換装。

2010年度の全国大会直後からとりかかったエンジンの改良作業は、比較的順調に推移しましたが、3月11日に発生した東日本大震災に伴う春休み中の合宿中止と、4月6日に公開された競技規則の変更に伴うドタバタ劇の煽りを受けて、停滞を余儀なくされました。その上、深刻なエンジントラブルに見舞われたため、最初の走行練習に漕ぎ着けることができたのはようやく7月18日のことでしたが、改良の成果が発揮されエンジンの調子は良好だったものの、シャシの整備不良に起因して転がり性能は著しく悪化していました。その後の走行練習でも転がり性能はなかなか復調せず、8月下旬からは部員の大半を動員して、原因の調査と評価実験に明け暮れました。それが功を奏して、全国大会前最終となった9月25日の走行練習では転がり性能が回復し、前年度最終盤のNP号Uの燃費記録を10%程度更新することができました。

全国大会では、初日の練習走行で1425km/Lを記録したものの、2日目の決勝では1398km/Lにとどまりました。それでも、2009年度にNP号が記録した1177km/Lのチーム記録を大幅に更新することができました。

2012年度は、以下の改良に取り組みました。

  1. 後輪クラッチ機構の10年ぶりの全面改良。

  2. ワイドリム化(STARS J40S)。

  3. エンジン各部の改良。

  4. 燃料ポンプのエイプ50用への換装。

  5. 専用のDC/DCコンバータからの燃料噴射弁への電力供給。

  6. クランク軸回転を検出するピックアップの換装。

  7. 5、6の改良に伴う総合電子制御回路の改良。

台上試験では1〜3の改良の効果が大きいことが確認され期待が高まりましたが、実車走行練習では3の効果は追認できたものの、足回りに関する1と2の改良については、各部の整備不良も相俟って、最終走行練習まではっきりした効果を実感できないまま終始しました。

全国大会では、決勝当日の朝になって、空燃比センサLM-1が正しく動作していないことが発覚。空燃比センサを活用した制御は我が部の生命線で、危機的状況に追い込まれましたが、電源を再投入すると稀に正常に動作することがわかって、それに一縷の望みを託すしかありませんでした。幸い決勝では正常な動作をし続けてくれ、チーム記録の1398km/Lを約350km/Lも更新する1747km/Lを叩き出してくれました。

折から後継機のNP号Vの開発が進んでいて、この年の大会がラストランとなることが決まっていました。それだけに、開発当初は全く想定していなかった1700km/L台を出して有終の美を飾ってくれたことには感慨深いものがありました。

2007年度型NP号U

NP号のカウルは空気抵抗低減に大きな効果をあげましたが、さらにその上を狙って開発したカウル。重量も、2006年度型NP号のカウルが14.6kgだったのに対して9.4kgと約5kgも軽減することができました。ちなみに、塗装はスバル車に使われているブライトレッド・メタリックという色で、いきつけの塗料屋さんに調合してもらったものです。メタリックはNP号に引き続くもので、磨けば磨くほど光沢を増すことに味を占めたカウル製作グループのたっての要望によるものです。ただし、塗料代はNP号のときの2.5倍。我が部の財政破綻のとどめとなりました。

燃料供給装置はキャブレター。エアクリーナーを純正品から小型のものに換えたため、セッティングをやり直さなくてはならなくなりました。しかし、トラブルが頻発し、それが収まったと思ったら練習場が使えなくなってしまって、相当アバウトな調整で全国大会に臨まざるを得ませんでした。

NP号のフレーム(左)との比較。剛性アップのため、補強が加えられています。

2008年度型NP号U

 

カーボン化プロジェクトの第1弾として、既存のメス型からCFRP製カウルを製作しました。カーボン化プロジェクトのページで詳述しているように、開発過程は我が部始まって以来とも言うべき悪戦苦闘の連続でした。例によって塗装はブラック・メタリック。JAGUAR車に使われている色を選んで、いきつけの塗料屋さんに見積もりを依頼したのですが、余りに高価になり過ぎるとの理由から、類似した安価な色に変更さぜるを得ませんでした(それでも我が部にとっては高価でした)。

モノコック車両の開発を見据えて、予行演習として、シートやヘッドレストなどもサンドイッチ構造化しました。

ワイドリム化(20×2.125)し、タイヤもTGMY Asida製20×2.125に換装しました。

この年から、走行練習のため八戸ライセンススクールさんの教習コースをお借りできることになりました。従来のポートアイランドに比べると、マクロ的には平坦なのですが、路面の補修箇所の局部的な凸凹が大きく、キャブレターのフロート室の液面が安定せず、走行練習で有効なデータを取ることができませんでした。そこで、以前オイル経路内に設けていた電磁バルブを流用して、惰性走行中に燃料がキャブレター内に流入するのを防ぐ燃料カット用電磁バルブを設置しました。

2009年度型NP号U

 

前年度不本意なできのまま大会出場を余儀なくされたCFRP製カウルを再製作しました。表面の美しさや、フランジ部の平面度、強度などの点で格段に向上させることができましたが、含浸させる樹脂の重量管理を怠ったため、重量軽減効果は2kgにとどまりました。

2010年度型NP号U

 

この年唯一の改良点は電子制御燃料噴射化で、我が部で従来用いてきたDCP式ではなく、2007年にマイナーチェンジされたスーパーカブ50用の噴射弁を採用しました。ただし、折から開発を進めていたBG号に優先的に工数を割いてきたため、初めてエンジンが始動できたのは、全国大会の2ヶ月前という有様。突貫作業で調整にあたって、全国大会に何とか間に合わせたというのが実情でした。

大会成績

注1.2009年度はタイムオーバー、2010年度はリタイア。

注2.2011年度より、「大学・短大・高専・専門学校クラス」が「大学・短大・高専・専門学校生クラス」に改称された。

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