佐々木 有 Sasaki Yu [理学博士]
マテリアル・バイオ工学コース 教授
専門分野
- 毒性学Toxicology
写真
研究課題
- 発癌抑制を中心とする機能性食品に関する毒性学研究
Genotoxic research of antimutagenic and/or anticarcinogenic factors in food - 臓器特異性遺伝毒性の解析
Genotoxic anlysis of organ specific carcinogenicity
研究シーズ
「毒性学」とは、様々な化学物質が生物の体や環境にどのような影響を与えるのか、ということを調べる学問である。医薬品、農薬、食品添加物などの化学物質は、全て、「事実上」安全であることが確かめられてから使われている。塩といえども無毒ではない。「事実上安全」とは、その化学物質を適切な量で利用することで発生する「利益」と「リスク」を両天秤にかけて判断する安全性である。たとえば、食品には防腐剤を添加しないほうが望ましいことは当たり前であるが、農産物を安全かつ低コストに輸送し保管することが避けられない現代では、防腐剤を使わないと食中毒が発生する可能性が考えられる。この場合、食中毒のリスクを抑制するために防腐剤をヒトの健康に何らの影響も与えない量で使用するのであれば、これは「事実上安全」ということになる。このように、「毒性学」から分かったことはわれわれの生活を支えているともいえる。
現在の日本人の死亡原因は、結核をはじめとする感染症が抗生物質などによって減少した結果、第一位は癌であり、「癌の征圧」に対する関心は高い。毒性学的に考えると、「癌の征圧」には二つの戦略がある。第一の戦略は、発癌性化学物質にできるだけ曝されないようにすることである。そのためには、どの化学物質に発癌性があるのかを知る必要がある。
第二の戦略は、癌の発症をできるだけ遅くすることである。第一の戦略は発癌性の化学物質にできるだけ曝されないようにすることとしたが、そこには自ずと限界がある。煙草の煙は発癌物質を含むが、その毒性は「避け得る」毒性である。酸素もDNAや蛋白質をその酸化力で損傷してしまう、いわば毒物である。しかし、われわれ人間は酸素がなければ片時も生きていくことができず、酸素の毒性は「避け得ない」毒性である。ヒトの癌の原因の1/3は煙草であるが、別の1/3は日常の普通の食品の中にあり、我々は「避け得ない」発癌性物質に常に暴露されている。そこで、そのような作用を減弱する、あるいは、正常な細胞が癌細胞に至る時間を延長することができれば、癌の発症を遅らせることが可能となる。一般に40歳以降が癌年齢と言われるが、それを人間の天寿に近いところまで遅らせることができれば、癌で死ぬということがなくなり、癌は事実上「制圧」されたことになる。このような癌を天寿癌と言っている。このような作用をもった物質を、特に、我々の日常の食品の中から探し出していく、すなわち、「医食同源」の考え方である。本研究室では、発癌性を抑え込む物質を捕まえようとして、魚に含まれるEPAや杜仲茶に発癌性を抑制する可能性があることを見いだしている。
・内閣府食品安全委員会専門委員(農薬専門調査会)
事例
- 野菜スープの発癌抑制作用に関する研究
研究のキーワード
毒性,リスク評価,天寿癌,機能性食品,医食同源