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【リケイの本棚】 中高生のための本棚公開

リケイとかブンケイとか、かんたんに分けられるものではないけれど、どちらかと言えば科学的発想や科学的手法に関連のある本を紹介します。

『気温が1度上がると、どうなるの?気候変動のしくみ: 地球の未来を考える』

『気温が1度上がると、どうなるの?気候変動のしくみ: 地球の未来を考える』戸田山みどり(八戸工業高等専門学校・教員)
  • 文:クリスティーナ・シャルマッハー・シュライバー
  • 絵:シュテファニー・マリアン
  • 監修:竹内 薫  訳:松永美穂
  • 西村書店  2021年

2015年、国際的な気候変動への対策としてパリ協定が採択されました。その最も重要な目標が地球の平均気温の上昇を産業革命以前(250年くらい前)よりも1.5度に抑えること。しかし、過去150年で既に1度、気温は上昇しているのです。さらに気温が上昇すると、どのようなことが起こるでしょう? 台風のような暴風雨がより激しくなる一方、雨が降らない時期が長くなり干ばつになっている地域もあります。今まで通りの農業ができなくなり、食糧不足に陥る国も出てきます。貧しい国ほど影響が大きいことも問題です。このような気温の上昇の原因は私たちの生活そのものにあります。この本では、何が温室効果ガスを生み出しているのか、それを削減して気温の上昇を防ぐためには何をすれば良いのか、わかりやすく説明されています。地球の未来は、みなさん一人ひとりの行動にかかっているのです。

『博士の愛したジミな昆虫』

『博士の愛したジミな昆虫』戸田山みどり(八戸工業高等専門学校・教員)
  • 編著:金子 修治, 鈴木 紀之, 安田 弘法
  • 岩波ジュニア新書   2020年

昆虫は好きですか? あまり得意ではない? 好きとか以前に、小さいので、何がどうなっているのか、よく分からない? とはいえ、刺されて痛い思いをしたり、血を吸われたり、逆にミツバチの集めたハチミツをいただいたり、農作物の受粉に必要不可欠だったりと、昆虫は様々なところで私たちの生活と密接に関わっていますよね。この本では、日本の身近な昆虫に取り組む10人の研究者が、一見地味でも奥深い昆虫の世界を紹介しています。ごく小さな生き物の世界にも「敵の敵は味方」の弱肉強食の世界があり、生き残り戦略があります。4億年の歴史を持ち、現在も100万種以上が地球上の隅々に生息する昆虫は、知れば知るほど精妙な生態系のバランスを司っているということが見えてきます。また、大御所から若手まで、老若男女の昆虫学者が登場し、様々な方法で研究に取り組む研究者の生態の一端を知ることもできます。

『若い読者のための「種の起源」』

『若い読者のための「種の起源」』戸田山みどり(八戸工業高等専門学校・教員)
  • 著:チャールズ・ダーウィン、編集:レベッカ・ステフォフ
  • 訳:鳥見 真生
  • あすなろ書房  2019年

私たちが生物について考えるとき、それがどのようにして現在のような姿になったのか、その仕組みを知っておきたいと思うでしょう。進化の概念を今日の生物学の基礎として確立したのが、1859年に出版された、チャールズ・ダーウィンの『種の起源』(光文社古典新訳文庫ほか)です。ダーウィンは身近な生物の観察や実験を通して、種(個体ではありません)においては、わずかな変化が環境に適応している個体が、より多くの子孫を残すことで優性になり、その結果、新たな種に変化する、という進化の仕組みを提案しました。また、その理論に従えば、全ての生物はある一つの原始的な生物から由来しているはずだと述べています。当時はまだキリスト教の影響が強く、地球上の全ての種は聖書にあるように造物主によって一つずつ創造されたと考える人がほとんどでした。そのため、ダーウィンは様々な反論に備えておく必要がありました。この本は、『種の起源』から進化の仕組みを説明している箇所を抜き出して最新の情報を加え、カラー図版満載で紹介したもの。これを読んで生物の進化に興味を持ったら、ぜひいつか省略版でない『種の起源』にも挑戦してください。

『文系と理系はなぜ分かれたのか』

『文系と理系はなぜ分かれたのか』戸田山みどり(八戸工業高等専門学校・教員)
  • (隠岐さや香、星海社新書)

みなさんは自分を理系だと思いますか、文系だと思いますか?『文系と理系はなぜ分かれたのか』は、理系と文系という分類がどのようにしてできてきたかを追及した画期的な文献です。西洋では人文系の学問はもともとキリスト教のため、つまり神の言葉を理解するために始まったものでした。その一方、科学は神様抜きでこの世界を説明しようとして発展します。対して、日本で文系・理系の区別が進路選択に影響を及ぼすようになったのは、明治時代の官僚が文官と技官に分かれたから。当時、女性には大学に進む道は(ほぼ)閉ざされていました。現在、日本で理工系に進む女性は少ない(2018年の工学部の女子学生率は15%)のですが、女性向けではないというイメージが先行して、女の子たちの理数科目への自信を失わせていると言われます。実は、文系とされる法学部や経済学部も長らく女性の比率が低かったので、高収入に結びつく職業への道から排除されてきたから、と考えるべきでしょう。しかし、性別と能力は関係ありません。文系でも理系でも、男性でも女性でも、チャンスは平等です。それを生かすのはみなさん自身です!

『新版 科学者の目』

『新版 科学者の目』戸田山みどり(八戸工業高等専門学校・教員)

かこさとし/文・絵 童心社 (2019/07)

皆さんは子どもの頃、絵本の「だるまちゃん」シリーズや『からすのパンやさん』を楽しんだでしょうか?もしかすると、『かわ』や『はははのはなし』のような科学絵本が好きでしたか?どれも、様々なジャンルのたくさんの作品を生み出した加古里子(かこさとし)さんの作品です。この本は、そのかこさんが毎回読み切りで新聞に連載した科学者の伝記シリーズ。もともとは工学部で化学を専攻し、民間企業の研究職だったかこさんが、ここでは、絵本よりももっと上の世代に向けて、科学者の人となりと、その業績の一端を紹介しています。取り上げられているのは、誰もが知っているコペルニクスやメンデル、アインシュタインのような有名な科学者から、レントゲンやノーベルのように、名前は知っているけれど何をしたのかあまり知られていない人、さらに、リチャード・オーウェンのように、現役の時には絶大な影響力を持っていたが、今ではダーウィンの偉業の前に古い科学の代名詞のようになってしまった科学者までさまざまです。ぜひご紹介したいのは、41名のうち2名が女性であることです。一人は有名な天文学者の妹であるカロリーネ・ハーシェル。長い間、ウィリアム・ハーシェルの研究を手伝った単なる助手のように見られていましたが、彼女自身の業績も兄に劣らないことが丁寧に説明されています。もう一人は大正2年(1913)に東北帝国大学に国内初の「大学生」として入学した三人の女性の一人である丹下ウメ。丹下は女性として日本で初めての農学博士となり、日本女子大学教授として、多くの女性科学者を育てました。科学者一人ひとりの知識への格闘が、現在の私たちの生活を支えているのだな、ということが伝わってくる名著です。