NP号Vは、NP号Uの後継機として、2011年度の全国大会後に開発に着手したマシンです。当時の本校チームの2台の現行車両のうち、NP号Uはステンレス鋼管製のシャシにCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)製のカウルを纏わせた構造となっていましたが、その後開発されたBG号はCFRPモノコック構造に改められていました。ただしBG号は、本校チームにとって初めてのCFRPモノコック車両だったため、重量軽減よりも、剛性や作りやすさを優先して開発したこともあって、NP号Uよりも約8kg重くなっていました。また、BG号を開発して間もないこともあって、新型車両をCFRPモノコック構造としても、剛性を確保しつつ大幅に軽量化を果たせる技術的な裏づけは確立できていませんでした。こうしたことから、新型車両のNP号Vには、NP号Uのステンレス鋼管製シャシ+CFRP製カウルという構造を引き継がせることにしました。
開発にあたっては、
シャシはNP号Uをベースとするが、NP号Uでやや不足していた剛性の向上を図る。
前輪操舵系統と後輪クラッチ機構を抜本的に見直すとともに、新規に入手した幅広リム(J40S)も活用して,転がり抵抗の低減を図る。
BG号の開発で得られたカウル製作技術を活かして、NP号Uよりも洗練された形状にして、空気抵抗の低減を図る。また、製作に当たっては、本校チームとして初めてとなるプリプレグ材を使用する。
という方針で臨みました。また、開発目標として、「3年目までに2000km/Lを超える」ことを掲げました。
先行して設計製作したのは、新型後輪クラッチ機構でした。大きな負荷がかかる部位だけに、新型車両でいきなり試すことはリスクが大きいと判断したためで、2012年4月以降、試作品を現行車両に搭載してテストを繰り返しました。若干の修正は必要だったものの、全国大会まで試用した結果、強度や信頼性の点で問題がないことを確認することができたため、新型車両のNP号Vにも搭載することを決めました。一方、2012年3月からはカウルの製作を開始し、2012年9月に開催された全国大会を終えると、前輪操舵系統の見直しにも着手して、同年12月上旬からシャシの製作をスタートさせました。
初試走は2013年5月19日。この日に間に合わせるべくカウル製作に工数の大半を割いていたため、整備は片手間で済まさざるを得なかったのですが、そうした中で練習場における惰性走行距離のベスト記録を更新してくれました。その後の走行練習での惰性走行距離は今ひとつの感がありましたが、走行練習を重ねるに連れて、我が部始まって以来とも言える、2年生主体のスタッフの整備力も安定してきたことは好材料でした。
全国大会では、風向きの影響で、惰性走行不良に見舞われました。このため、燃費記録は1731km/Lと、NP号Uが前年度に記録した1747km/Lに及びませんでした。
2014年度は、以下の改良に取り組みました。
エンジンの保温性改善。
燃圧制御回路の新開発。
女性ドライバーへの変更に伴う、ヘッドレスト等の変更。
この年は、4年生1名を除くと、全員が3年生以下という状態だったため、過去数年に比べると改良箇所は微々たるものにとどめて、セッティングにウエイトをおかざるを得なかったのですが、5月18日に行った初回の走行練習では、足回りの整備方法の改善効果もあって惰性走行距離のベスト記録を更新してくれました。しかし、信じられないような整備ミスが相継いでいたエンジンの調子は最悪で、ようやくエンジンが復調した7月21日の4回目の走行練習では、それまで好調だった惰性走行性能が悪化する始末。それを改善すべく八方手を尽くしたものの、全国大会前最終となった8月24日の走行練習でも結果は奮わないままでした。しかし、その後の調査で原因が特定でき、対策を講じた上で、全国大会を迎えることができたのは幸いでした。
全国大会では、初日の練習走行で1988km/Lを記録しましたが、2日目の決勝では1738km/Lにとどまり、チーム記録を更新することはできませんでした。
2015年度は、以下の改良に取り組みました。
転がり抵抗低減ための前後輪ハブの内部構造の見直し。
全国大会での走行パターンに合わせた減速比の見直し。
吸気系統の見直し。
後輪クラッチ機構の空気圧シリンダ駆動化。
エンジン保温性と、燃料系統遮熱性の改善。
この他、2015年1月から深刻なエンジントラブルに見舞われたため、シリンダ、ピストン、シリンダヘッド等の主要部品の換装を余儀なくされました。
1回目と2回目の走行練習では1の改良効果が現れて、惰性走行距離はほぼ過去最高レベルを記録しましたが、3回目以降は奮わなくなりました。しかし、ようやく6回目となった8月24日には復調し、全国大会前最終となった9月7日には、練習場における惰性走行距離のベスト記録とほぼ肩を並べるまでなりました。一方のエンジンは絶不調に陥っていましたが、主要部品の換装の換装などにより、9月7日の最終走行練習では練習場における燃費記録を更新することができました。
しかし、全国大会では初日の練習走行ではセンサケーブルの接触不良によりリタイア、2日目の決勝では最終加速の後パンクに見舞われ、何とか制限時間内にゴールする有様。ほとんど自滅に近い状態で1621Km/Lにとどまり、「3年目までに2000km/Lを超える」との開発目標を達成することはできませんでした。
2016年度は、以下の改良に取り組みました。
鋼管製シャシの剛性アップ。
エンジン保温カバーの全面改良。
吸気系統見直し。
燃料噴射制御の見直し。
前年度は深刻なエンジントラブルに見舞われ続け、全国大会前にはほぼ完治させることができたものと判断していたのですが、データを分析すると、やはり本調子には戻っていなかったことが明らかとなりました。そこで大会直後から原因究明を続けた結果、最大の問題点が吸気系統にあることを突き止めることができました。そこで吸気系統の改良に取り組み、6月までには成果を得ることができたのですが、一連の実験から燃料噴射制御を見直せば燃費性能を向上させることができるのでないかという感触が得られたことから、大会前の約3ヵ月間はその実現に傾注することになりました。
ところが、その効果が確認され始めていた9月11日の走行練習で、操舵系統の部品の破損に起因して、カーブを曲がり切れずにコースアウトする事態に見舞われてしてしまいました。カウルのフロントノーズ部やシャシフレームのフロントオーバーハング部に大きな損傷を受けており、3週間後に迫った全国大会までに修復することは無理と判断されたため、全国大会を欠場するとともに、廃車にすることを余儀なくされました。
NP号Vは、我が部として初めて「2000km/Lを超える」という目標を掲げたマシンでした。地元での走行練習では、先代のNP号Uを大幅に上回るポテンシャルを示してくれましたが、残念ながら気象条件やトラブル等に起因して、全国大会で真価を発揮することはできませんでした。ただし、エコラン初参戦以来掲げてきた安全第一という方針が、長い年月を経るうちに次第に薄れつつあった状況の中で、改めてそのことの重要性を突き付けてくれたという点では、エンジンアの卵たちに良い教訓を残してくれた存在と言えるかもしれません。
2012年2月に完成した3次元図面。カウルはこの図面に基づいて製作を開始しましたが、前輪操舵系統については、2012年10月以降に大幅に手を入れ直して製作を進めました。
初めてプリプレグ材を使用したカウル。資材の在庫確認に手落ちがあったため、アッパーカウルの成型に大失敗してしまい、表面の美しさは既存のマシンに大きく劣る結果になってしまいました。色は、スバルのインプレッサのプラズマ・ブルーシリカで、我が部の悪しき伝統に従って当然メタリックです。
自作ハブベースの新型後輪クラッチ機構。先行して2012年5月までに製作し、現行車両に搭載して全国大会まで試用した結果、信頼性が確認されたため、取り付け寸法を若干修正した上でNP号Vに採用することにしました。
悩みの種だったガタをなくすべく、前輪ハブを自作化するとともに、その支持部も見直しました。
過去2年間の全国大会では、走行パターンの重要性を改めて思い知らされました。そこで、フロント回路のディスプレイを、従来のキャラクタ式からグラフィック式に改めて、ドライバーが走行パターンをリアルタイムで確認できるようにしました。横軸は走行距離(単位はkm,レンジは1周分),縦軸は速度(単位はkm/h)で、水色で描かれているのは2012年度全国大会決勝1周目のデータで、走行中のデータは黄色で上書きされていきます。また、加速が終了すると、空燃比の推移が一定時間表示されるようにしてあります。
注1.2016年度は未出走。
写真をクリックすると大きくなります