GT号は、フレームをアルミ合金にすることで軽量化を狙ったのですが、基本的な構造がJT号とさして変わりなかったため、重量軽減効果は少なく、その一方で、溶接部の強度に不安が残りました。そこで、フレームをステンレス鋼に戻したマシンとして1998年度に開発されたのがEG号です。
EG号の名前の由来は、GT号では3次元的なキャノピーに無理やりフロント・スクリーンを取り付けたため、歪みがひどく、ドライバーの前方視認性が悪かったので、そうした問題を解決するため、2次元的なスクリーンを無理なく取り付けられようにして、運転をeasy(イージー)にするよう意図したことに起因します。また、EG号のカウルの側面図を眺めていたら、当時「トヨタの天才タマゴ」のコピーでベストセラーとなっていたミニバン「エスティマ」のそれに良く似ていているように思えたことから(あくまで思えただけです)、タマゴのeggからEG号と名付けた一面もあります。
このEG号の開発方針は、
といったところで、ポテンシャルからすれば、従来の八戸高専マシンの水準を大きく超える画期的なマシンになるはずでした。
しかし、開発が遅れに遅れて(開発にあたった部員達の努力は尋常ならざるものがあったのですが)、ろくに試運転もしないで大会を迎えねばならず、そのうえエンジンの組立ミスや車体の剛性不足も重なって、初年度はリッターあたり284kmの惨々たる記録に終わりました。
2年目の1999年度も、改良箇所は強度不足だったカウルの補強程度で、作業量は前年度の1/10以下だったにもかかわらず、開発が遅れて、大会前の試運転はたったの1回。結局、車体の剛性不足などの要因により366km/Lにとどまりました。
そこで、2000年度は、主として剛性アップに取り組みましたが、またしても開発の遅延から大会前の試運転は1回だけという有様。記録は367km/L。毎年のことですが、試運転不足のため各種設定が最適化できなかったことにによるものと思われます。
2001年度はマシンの改良にほとんど手をつけなかったため、十分な試運転により、トラブルを解消するとともに、各種設定を最適化できるはずでした。しかし、部員の不注意からこれまで何の問題もなかった箇所を破壊・破損するという事態が相次ぎ、結局、思ったほど試運転はできませんでした。それでも、このEG号になってからとしては、走行練習で最も有益なデータ(点火時期及び空気圧)が得られましたので、それを活かして422km/Lと、6年ぶりにチーム記録を更新することができました。
2002年度は4年ぶりに大幅な改造を加えました。主な変更点は、
といったところです。しかし、例年の例に漏れず、マシンの開発が遅れたために、電子制御回路の評価をしている時間が不足して、2002年度の大会ではこれまでの回路で臨まざるを得ませんでした。それに伴って潤滑方式も滴下式のままとしました。また、電動式の吸気バルブの停止機構は未完のまま大会を迎えてしまいました。
従って、大会に間に合ったのは、タイヤの換装とワンウエイクラッチ機構への変更だけだったのですが、これら2点の変更とそれに伴う駆動系の見直し、そして前年度までのデータの蓄積が効を奏して、リッターあたり473kmと2年連続でチーム記録を更新することができました。
2003年度は、車体とカウルは前年度のままとし、主として、
圧縮比の向上(2000〜2002年度は圧縮比をノーマルのままとしていましたが、久しぶりに圧縮比をアップしました)。
吸気バルブ休止機構、後輪クラッチ機構のソレノイド化。
前年度に開発した総合電子制御回路及び電動ポンプによる潤滑方式の採用
といった改良に取り組みました。走行練習では、トラブルが多発し信頼性の点で不安は残ったものの、記録は前年度を大きく上回っており、トラブルさえなければ全国大会でチーム記録を更新できるものと思われました。
しかし、全国大会は、台風接近の報が流れる中、雨との戦いになりました。突貫作業の雨対策が功を奏して完走はしたものの、記録は395km/Lにとどまり、記録更新はお預けとなりました。
2004年度の主な改良点は、
駆動損失低減のための中間軸の支持法見直し及びそれに伴うシャシ後部の全面改良。
防水性・耐ノイズ性・操作性向上のため、総合電子制御回路の全面改良。
メインジェットの小径化(希薄燃焼化)及びそれに対応した高速域での点火火花の強化。
オイル漏れ防止のための潤滑系統の見直し。
保温のため、シリンダヘッドの燃料室上部の空間にオイル溜めを作る。また、オーバーヒート防止のため、油温をサーミスタで計測し、一定温度以上になったら、この部分のオイルを循環させるようにする。
前年度に発生した燃焼室内へのオイル浸入防止対策。
と多岐に渡り、シャシ前部の前輪支持部以外はほとんど全て作り直す、フルモデルチェンジに近い大改修となりました。にもかかわらず、最初の走行練習は7月5日と例年よりも早く、その後も順調にデータ取りが進み、練習場における自己記録を次々と更新していきました。しかし、練習場が総合防災訓練のため8月いっぱい使用できなくなり、セッティングを煮詰めることができないまま全国大会を迎えねばなりませんでした。
全国大会初日は好天に恵まれ、公式練習で過去最高の600km/Lを記録しましたが、一転して雨中の走行となった2日目の決勝では、視界不良に起因するトラブルでリタイア。2年連続して雨のため記録更新は果たせませんでした。
2005年度は、
エンジンの潤滑保温系統の見直し(燃焼室内へのオイル浸入防止対策も含む)。
エンジン各部の軽量化。
前輪支持部及び操舵系統をEG号Uと同様のシステムに変更。
FRP製カウルの老朽化に伴って、保管してあったメス型からの再製作。
などの改良を行いました。走行練習では、前年度の練習場における記録を大幅に上回ったものの、整備不良によるトラブルが多発し、不安感を拭い去ることのできないまま全国大会を迎えなければなりませんでした。
3年ぶりに好天に恵まれた全国大会では、初日に小さなトラブルこそあったものの、2日目の決勝ではノントラブルで694km/L。3年分の改良の成果が一挙に現れて、大幅にチーム記録を更新することができました。
2006年度は、NP号の新開発に追われて、EG号に手をかけている余裕がなく、
ピストン換装による圧縮比の更なる向上。
タイヤチューブのウレタン化。
といった簡単な改良しかできませんでした(改良ではありませんが、ドライバーが約10kg軽くなったのも性能向上要因)。走行練習では、ポテンシャルの向上は明らかなものの、整備力の低下に起因して、それを安定して発揮させることができず、もどかしい思いをさせられました。
しかし、全国大会では872km/Lを記録。EG号の改良に本格的に取り組み始めた2002年度以来,最も手抜きの改良だったにもかかわらず、前年度の記録を約180km/Lも上回ってしまったのです。
実は大会前から、EG号はこの年限りで引退させることに決めていました。ですから、1998年度以来、長らく活躍してくれたEG号には、有終の美を飾らせたいとは願っていましたが、これほどの記録は想定外でした。
EG号の開発目標は、700〜800km/Lでした。しかし、裏付があっての目標ではなく、実際開発当初はそれには及びもつかない記録しか出せませんでした。その最大の原因は冒頭に掲げた開発方針にありました。「フレームの大幅な軽量化」は明らかにやりすぎで、前輪のアライメントは狂いはひどく、大いに足を引っ張りました。また、「吸気バルブ休止機構、後輪ドグクラッチの新設」も、機構の完成度の低さから、easyどころか、ドライバーに過大な負担をかけることになりました。さらに、1996年度に成算もないままエンジンを改造してしまったことも、信頼性の低下を招いていました。しかし、こうした多くの問題点を抱えながらも、実働部員数の低下により、遅々として改良は進みませんでした。
本格的に改良に取り組み始めたのは、デビューから3年後の2001年度の大会終了後のことでした。それからは、地道に各部の改良を続けてきました。そして、9回目の出場となった2006年度の大会で目標を達成することができました。感無量としか言いようがありませんでした。
フルカバードカウル、ステンレスフレームのEG号の外観
EG号最大の売り物のひとつがこれ。点火時期調整機能を持つフルトランジスタ型点火回路です。。エンジンの回転の検出は2つのピックアップで行います。ピックアップからの信号は、75゚BTDCと30゚BTDCに入力されるので、この2つの信号の間隔を計測すれば、エンジンが45゚回転するのに要する時間が算出できます。その上で、75゚BTDCの信号が入力されてから所定の点火時期になるまでの時間を求めて、その時間がきたらパワートランジスタをoffにして点火プラグに火花を飛ばします。このパワートランジスタを制御する信号は、主として2つの積分器とコンパレータで作り出しています。ただし、積分器に入力される信号の成形や積分器のリセットなど複雑な周辺回路を必要とするため、部品点数が大変多く、開発時には動作チェックに手間取りました。しかし、いったん完成してからはトラブルもなく、高い信頼性を誇りました。振り返ると、この点火回路の開発がなければ、現在の総合電子制御回路はあり得なかったでしょう。その点で、我が部にとってエポックメイキングな開発でした。
2002年度の最大の改良点は、ミシュラン製エコラン用タイヤへの換装と、この写真のワンウエイクラッチon/off機構の採用でした。2年連続のチーム記録更新の立役者となりました。
シリンダへッドのカバーに描かれた前部長の横顔。これがわが部のお守りです。このお守りの科学的な根拠は定かではありませんが、このお守りをつけた2002年度の大会で、エンジントラブルが全くなかったのも事実。チーム記録更新の真の立役者はこれなのかも?
ハンドル中央にあるのが、新型回路のフロントパネル。吸気バルブ休止機構と後輪クラッチ機構をいずれもソレノイド化したため、レバーが減って、すっきりしました。
これが、ソレノイド化した吸気バルブ休止機構。当初はシリンダヘッドに溶接されたアルミの中空丸棒の先端にソレノイドをナットで固定する写真のような構造だったのですが、アルミ棒が共振による疲労破壊で折損するトラブルが相次ぎ、フレームでソレノイドを支える構造に改めて全国大会に出場しました。
エンジン付近の様子。手前の黒いボックスが、点火時期などを設定するボード。その後、点火プラグ交換の作業性を改善するため、設定ボードは左前輪の後ろ側に移設しました。
後輪のクラッチ機構もソレノイド化しました。
2003年度から本格採用となった電動オイルポンプ。漏れを完全に防ぐことはできず、試運転の都度、クッキングペーパーを大量消費することになりました。
そして、これが新型総合電子制御回路。エンジンスタート及びストップスイッチで、スターターモータ、吸気バルブ休止用のソレノイド、後輪クラッチ用ソレノイド、オイルポンプを一括して制御します。また、回転数に応じて点火時期を設定できるようになった他、近接センサを用いたサイクルメータ機能も有しています。
シフトフォーク軸が入る穴を利用して中間軸を支えることにより、駆動損失低減を図りました。
後輪スプロケット側に放電加工でスプライン溝を切り、そのままハブに嵌められるようにして、ガタやブレを減らすことに成功しました。
総合電子制御回路もフルモデルチェンジしました。
保管してあったメス型から7年ぶりに作り直したGFRP製カウル。蟹のステッカー(エンブレム)の意味は、我が部の最高機密です。
蟹を可愛らしくしたら、前年度の記録を178km/Lも更新してしまいました?
注1.2001年度より、高専クラスとしての表彰・順位発表がなくなった。
注2.2003、2004年度は雨中走行。
注3.2004年度はリタイア。
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