BG号(2010年度〜)

BG号とは

我が部のマシンはこれまで、GT号を除いて、ステンレス鋼管を溶接したシャシに、GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)製のカウルを纏わせる構造としてきましたが、「剛性と信頼性の確保」を最重要視してきたこともあって、トップチームに比べると車体重量が重過ぎることが難点でした。それでも、2007年度の大会で長年の夢だった1000km/Lを超えることができました。そこで、次のステップに向けてスタートさせたのがカーボン化プロジェクトです。

我が部と同様に、鋼管製シャシにGFRPカウルを組み合わせた構造のマシンは数多く存在していますが、おそらくそれらの中でも我が部のマシンは最重量級でしょう。毎年のように軽量化のための地道な努力を積み重ねてきたものの、そうした状況を脱することができないでいるわけですから、次なるステップに向けて軽量化しようにも、目算は立ちません。この点で技術力不足は否めません。シャシのアルミ合金化も検討しましたが、GT号での苦い経験から、アルミ合金化の利点を活かすには、シャシ構造の抜本的な見直しが必要となることは自明でした。しかし、どうせ抜本的な見直しをするのならば、CFRP(カーボン繊維強化プラスチック)モノコック車両にトライした方が良いとの判断に傾きました。

そこでスタートさせたのがカーボン化プロジェクトです。このカーボン化プロジェクトの第1段階は、初めてCFRPにトライすることから、製作練習を兼ねて、NP号Uの既存の雌型からCFRP製カウルを製作することで、満足できる出来映えではなかったものの、何とか2008年度の大会に出走させることができました。その上で第2段階として取り組んだのが、新設計のCFRPモノコック車両の開発することで、それがこのBG号です。名称は、地元八戸市の蕪島を繁殖地とし、我が部が長年練習場としてお借りしてきた八戸港ポートアイランドにしばしば飛来して、その様子を見守ってきてくれたウミネコ(Black-tailed Gull)に由来します。

BG号は初のCFRPモノコック車両であるだけに、開発直後から高い信頼性を確保できる可能性は低いでしょう。それだけに、短期的な成果は求めず、開発目的には「2000km/Lをめざす次世代のマシンへの架け橋となること」を掲げました。開発コンセプトは、

  1. 初めてのCFRPモノコック車両なので、軽量化に配慮しつつも強度、剛性、作りやすさを優先する。

  2. NP号やNP号Uでは前面投影面積低減のためホイールベースを1650mm前後まで拡大してきたが、全幅は維持しつつ、ホイールベースはそれ以前のマシン並みの1500mm程度まで縮小する。・・・その後1650mmに戻すことにしました。

  3. 従来は2次元CADで設計していたが、2006年度末に本校に導入されたに3次元CADシステムで設計し、流体解析用CAEを活用して、空気抵抗の低減を図る。

  4. 引退させるNP号を引き継ぐ形で、燃料供給装置はDCP式電子制御燃料噴射式とする。

というもので、目標には想定される初期不良の改善を図った上で、「3年目までに1500km/L」を掲げました。

2008年10月から設計を始めてみると、従来のステンレス鋼管製フレーム車両とは仕様が全く異なるため、各部をほとんど白紙から設計し直さなければならず、設計作業は大幅に遅延しました。ロアパネルの設計がいったん完了したのは2009年2月になってからでしたが、ホイールベースを無理やり1500mmまで短縮したことが仇となって、フロントオーバーハングが異常に長くなっていました。このため、ホイールベースを従来型並の1650mmまで延長することにして、設計をやり直すことにしたのですが、その過程でその他の問題点もいろいろと明らかになってきました。その後4月中旬に至っても、いつ設計変更が完了するのか全く目処が立たない状況にあったため、秋の全国大会に間に合わせることは不可能と判断せざるを得ず、BG号は2010年度のデビューをめざすことになりました。

ロアパネルの再設計が完了したのは2009年5月、アッパーカウルの設計が完了したのは同年6月で、それから本格的な製作が始まりました。この年の全国大会に出場させる現行型の改良や整備を担う部員を最小限にとどめて、BG号の製作に総力を挙げましたが、オス型完成は9月中旬までずれ込み、9月までにロアパネルだけでも完成させて試走を行うという目論見は果たせませんでした。

結局、校内での初試走に漕ぎ着けたのは2010年6月。2010年度の全国大会に出走させるには、不良箇所を洗い出して改良し、セッティングを煮詰めていく期間を考えると、ぎりぎりのタイミングでした。実際、整備不良に起因して3回目の走行練習までは、前年度の燃費記録を大きく下回る有様。また、計量してみたところ、従来型であるNP号Uの前年度の全国大会仕様に比べると7kgも重くなっていることも発覚しました。その後、シャシローラでセッティングを煮詰めていく中、大幅に燃料消費量を低減できるようになりましたが、しかしそれも束の間、エンジンが絶不調に陥りました。燃料チューブを交換した際に、汚れがないかの確認を怠っていたため、燃料噴射弁内にダストが混入してしまったことが原因でした。このため、全国大会前最終となった9月27日の走行練習では、この年の走行練習での燃料消費量の最悪値を更新し続ける有様。最早、噴射弁を交換するしか打つ手はありませんでした。ただし、噴射弁を交換しても完全に復調したと言えるレベルに戻ることはなく、全国大会を迎えざるを得ませんでした。

全国大会は初日から雨に見舞われ、2日目の私たちがスタートする約1時間半前に、ようやく雨は上がりました。私たちが出走する時間になると、路面はかなり乾いているように見えましたが、まだ濡れている箇所もあって惰性走行の伸びを欠き、1109km/Lの記録にとどまりました。

2011年度は、前年度の全国大会でBG号をデビューさせたことにより、2007年度後半から工数と資金の大半を投入してきたカーボン化プロジェクトが一段落したことから、久しぶりにエンジンの本格的な改良に取り組むことにしました。主な改良点は、

  1. 熱害対策(センサの断熱、シリンダヘッドの潤滑強化など)。

  2. エア滞留削減のための燃料配管の見直し。

  3. データロガー機能の強化。

  4. 空燃比センサを用いたフィードバック制御の導入。

これらの改良はNP号Uと重なる部分が多く、先行して改良作業に着手していたNP号Uのそれが完了してから取りかかる予定にしていました。ところが、様々な事情からNP号Uの改良作業は遅れに遅れ、ようやくBG号のエンジンの改良に工数を割けるようになったのは6月下旬のことでした。このため、7月18日の最初の走行練習には、全く調整する余裕もなく臨まざるを得ませんでした。その後、改良調整を推し進めた結果、7月31日の走行練習では燃料消費量の低減が確認できましたが、NP号Uと同様、転がり性能の悪化が足を引っ張って、燃費記録としては満足できない結果に終わりました。その後の走行練習でも転がり性能はなかなか復調せず、8月下旬からは部員の大半を動員して、原因の調査と評価実験に明け暮れました。それが功を奏して、全国大会前最終となった9月25日の走行練習では転がり性能が回復し、前年度最終盤のBG号の燃費記録を15%程度更新することができました。

全国大会では、初日の練習走行で1291km/Lを記録したものの、2日目の決勝では1277km/Lにとどまりました。2009年度にNP号が記録した1177km/Lのチーム記録を大幅に更新することができたものの、NP号Uが記録した1398km/Lには遠く及ばず、重量増がネックとなっていることが改めて浮き彫りとなりました。

2012年度は、以下の改良に取り組みました。

  1. 後輪クラッチ機構の10年ぶりの全面改良。

  2. ワイドリム化(STARS J40S)。

  3. IRC製タイヤへの換装。

  4. エンジン各部の改良。

  5. FCデザイン製噴射弁への換装。

  6. 燃料ポンプのエイプ50用への換装。

  7. 専用のDC/DCコンバータからの燃料噴射弁への電力供給。

  8. クランク軸回転を検出するピックアップの換装。

  9. 7、8の改良に伴う総合電子制御回路の改良。

台上試験では1、2、4の改良の効果が大きいことが確認され期待が高まりましたが、実車走行練習では4の効果は追認できたものの、足回りに関する1と2の改良については、各部の整備不良も相俟って、最終走行練習まではっきりした効果を実感できないまま終始しました。また、エア滞留問題からDCP式から換装したFCデザイン製噴射弁も、約半年間格闘を続けたにもかかわらず、上手く使いこなすことができないまま、全国大会に臨まざるを得ませんでした。

全国大会では1568km/Lを記録し、チーム記録の1398km/Lを大幅に更新するとともに、開発目標の「3年目までに1500km/L」を達成することができましたが、並走したNP号Uの1747km/Lには大きく水をあけられました。

2013年度は、以下の改良に取り組みました。

  1. 自作前輪ハブへの換装。

  2. エンジン各部の改良。

  3. ダイヤフラム式燃料ポンプへの換装。

  4. フロント回路のディスプレイをキャラクタ式からグラフィック式へ換装。

この年は7回の走行練習を計画しましたが、最初の2回はエンジントラブルのためBG号を走らせることができませんでした。3回目にしてようやく走らせることができたものの、燃料消費量や惰性走行距離はボロボロの出来でした。続く4、5回目は天候不良に見舞われ、6、7回目は好天に恵まれたものの、惰性走行距離は低迷状態から抜け出せませんでした。

こうしたことから、全国大会には暗澹たる気持ちのまま向かわざるを得なかったのですが、風向きの影響がそれに輪をかけて1592km/Lにとどまりました。

2014年度は、以下の改良に取り組みました。

  1. スーパーカブ用噴射弁への換装。

  2. エンジンの保温性改善。

  3. 燃圧制御回路の新開発。

この年は、4年生1名を除くと、全員が3年生以下という状態だったため、過去数年に比べると改良箇所は微々たるものにとどめて、セッティングにウエイトをおかざるを得なかったのですが、エンジンでは信じられないような整備ミスが相継いでいました。ようやく7月21日の4回目の走行練習までにエンジンは復調を遂げましたが、惰性走行性能は絶不調のまま推移していました。結局、全国大会前最終となった8月24日の走行練習までそれを改善することはできませんでした。

このため、全国大会では前年度の記録を大幅に下回ることが予想されましたが、実際1503km/Lにとどまりました。

2015年度は、以下の改良に取り組みました。

  1. 転がり抵抗低減ための前後輪ハブの内部構造の見直し。

  2. 全国大会での走行パターンに合わせた減速比の見直し。

  3. 吸気系統の見直し。

  4. 後輪クラッチ機構の空気圧シリンダ駆動化。

  5. エンジン保温性と、燃料系統遮熱性の改善。

  6. ドライバー変更に伴うヘッドレストの再製作。

この他、2015年3月から深刻なエンジントラブルに見舞われたため、シリンダ、ピストン、シリンダヘッド等の主要部品の換装を余儀なくされました。

BG号は過去2年間、深刻な惰性走行性能不良に見舞われていました。そうした中で、1の改良効果が現れて、1回目の走行練習では、惰性走行距離はある程度の水準まで回復させることができましたが、ベストには及びませんでした。その後も試行錯誤を繰り返しましたが、最終走行練習まで惰性走行距離はほとんど変りませんでした。前年度までは走行練習の都度、浮沈が大きかったことからすれば、悪くはならないという点で進歩は感じられましたが、いろいろ工夫しても良くもならないところが課題として残りました。一方のエンジンは絶不調に陥っていましたが、主要部品の換装の換装などの対策を講じたものの、その慣らし運転が完了しないままで、期待と心配の両面を抱えたまま全国大会を迎えることになりました。

その全国大会では結局1431km/Lにとどまりました。

2016年度は、以下の改良に取り組みました。

  1. 燃料タンクの移設。

  2. エンジン保温カバー微修正。

  3. 吸気系統見直し。

  4. 燃料噴射制御の見直し。

本校チーム初となったCFRP車両BG号を長年運用してきましたが、何故鋼管製シャシのマシンに及ばなかったのかという原因は、前年度までにようやく把握することができました。しかし、その対策はなかなか難しく、折から後継機たるRS号の開発に工数を割かざるを得なかったこともあって、この年の改良点はごくわずかにとどまり、地元での走行練習でも記録は奮いませんでした。

ところが、NP号Vが事故のため全国大会に出走できなくなったことから、台上試験で優位に立っていたNP号Vのエンジンを載せ換えて大会に参加することになりました。その効果もあって、大会初日の練習走行では1677km/Lを記録しました。決勝では1619km/Lにとどまってしまったものの、それでも2013年度に記録したBG号としてのベスト記録である1592km/Lを3年ぶりに超えることができました。

2017年度は、NP号Wの開発に追われたため、改良箇所は、

  1. 燃料噴射制御の見直し。

だけに留まりました。また、天候に恵まれなかったことなどもあって、地元での走行練習はわずか2回しか実施できませんでした。

それでも全国大会では、足回りのセッティングがうまくいったことと、ドライバーが的確な運転をしてくれたこともあって、BG号としてのベスト記録を更新する1668km/Lを記録することができました。後継機のRS号の設計製作作業が進む中、BG号の大会出場はこれが最後と目されていただけに、有終の美を飾らせることができたのは幸いでした。

2010年度型BG号

大変な試行錯誤の上、完成させたロアパネルの3次元図面。ホイールベース1650mm、トレッド515mmは、結果として鋼管製フレームの従来車両と同じになりました。また、主構造材たるサンドイッチパネルでどの程度の剛性が得られるのか不明のため、エンジンから後輪に至る駆動系統は、従来どおりステンレス鋼管製のフレームで支持することにしました。

我が部として初めて流体解析用CAEを活用して設計したカウル。ただし、開発の遅れから、じっくり煮詰める時間的余裕がなく、その点が心残りでした。

我が部のこれまでのカウルは、強度確保のため、タイヤハウスの直後から急速に絞り込んで、金属製シャシに沿わせるのが常でしたが、モノコック車両ではこうした制約がなくなったため、グラマラスなボディー形状になりました。また、団子っ鼻だったフロントノーズ部分の形状もずいぶん洗練されたものになりました。塗料は、例によって、いきつけの塗料屋さんに調合してもらったもので、今回はマツダのデミオ用のスピリティッド・グリーン・メタリックという色。3年前のNP号Uのブライトレッド・メタリックに比べればやや安価だったものの、「エコランは塗料の価格を競う競技ではないんだ」と絶叫したくなるような価格でした。しかし、カウル担当には、いつものように涼しい顔で聞き流されました。

最も設計に苦心したのが前輪支持部。当初は、大幅なトレッド増とそれに伴う全幅拡大が見込まれましたが、何とか従来車両並みに抑制することができました。

燃料料供給系統は、NP号のDCP式電子制御燃料噴射システムを受け継ぎました。電子制御スロットルも同様です。ただし、折からNP号Uでスーパーカブ用の噴射弁を搭載することにしていたため、スーパーカブ用とDCP式の両者に対応したメイン回路を新開発しました。

大会成績

注.2011年度より、「大学・短大・高専・専門学校クラス」が「大学・短大・高専・専門学校生クラス」に改称された。

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