八戸高専自動車工学部は、1963年に本校が創立してまもない頃から存在していたようですが、当時の活動内容がどんなものであったのかはよくわかりません。1992年4月に初めてエコランカーの開発に取り組み始めてからは、我が部の活動はエコラン一筋になりました。
我が部が出場しているのは、毎年9〜10月頃に開催されているHondaエコ マイレッジ チャレンジ全国大会(2009年度までの大会名称はHondaエコノパワー燃費競技全国大会)だけです。年に1回だけ大会に出場するだけならば、他にもいろいろなことができそうに思われるかもしれません。しかし、マシンをただ作るだけならともかく、入念に走行練習を繰り返して、問題点を改良するとともに、最適な調整を施していくには1年という期間は短すぎるというのが実感です。大会直後から休む間もなく翌年の大会に向けて開発を進めても、余裕を持って大会を迎えることができたことはありません。このため、我が部にはオフシーズンというものがなく、1年中忙しさに追いまくられているのが実情です。しかしそれだけに、苦闘の末作り上げたマシンが「ツインリンクもてぎ」を快走し、無事ゴールに入ったときの感激、そして安堵感は言い知れぬものがあります。
八戸高専を志望している中学生の皆さん、こうした感激を一緒に味わってみませんか。
また、2年生以上の皆さん、中途入部も歓迎です。
マシンを製作するにはまず設計図が必要になります。上の写真は歴代マシンの設計図面集ですが、マシン1台分の図面は約200枚にも及びます。良いマシンを作るには、綿密な検討に基づいて、しっかりとした図面を描くことが必要不可欠ですが、それをきちんと整理して残していくことも、継続的な発展のためには重要です。
エコランに初挑戦した頃は図面を手書きで描いていましたが、1998年度に本校機械工学科に2次元CADシステムが導入されてからはそれを活用するようになりました。
機械技術者の基本は図面の読み書きです。自動車工学部に入ると、日常的に図面に接することになるため、自然とそうした能力が養われていきます。
2007年3月末に本校機械工学科に3次元CADシステムが導入されたことに伴い、2008年秋に設計に着手したBG号では、3次元CADで設計するようになりました。ただし、3次元CADの2次元図面作成機能には制約があることから、製作に用いる2次元図面は、3次元CADのデータを2次元CADに落としてから、必要な寸法などを記入して作成するようにしています。
軸は旋盤で製作します。機械工学科では1年生から旋盤の実習がありますが、駆動系統や操舵系統の旋盤部品に要求される精度は極めて高いため、そうした部位の加工は熟練した4〜5年生が担当します。
板ものやパイプの加工はフライス盤で行います。
幾ら苦労して図面を描いても作れなければ意味がありません。良い技術者になるためには、何よりも作り方を熟知していなければなりません。授業の枠組みだけでは体験できない難しい部品の製作体験を重ねることで、そうした素養が磨かれていきます。
シャシは伝統的にステンレス鋼管の溶接構造。精度や強度を確保するには、事前の十分な溶接練習や治具の準備が欠かせません。写真は後輪軸を支える部分の溶接の様子ですが、溶接の対象となる部品そのものよりも、アルミ合金製の治具の製作の方に余程手間をかけています。
空気抵抗を減らすためのカウルの製作には途方もない労力を要します。地道な努力の積み重ねと、美しさへのこだわりなしに、良いカウルは生まれません。写真はオス型成型工程のものですが、毎日少しずつカウルの形が仕上がっていくのを体感できるこの工程こそ、エコランカー作りで最も心躍る瞬間と言えるでしょう。
電子制御回路は、感光基板をエッチングしてパターンを作り出し、ボール盤で穴あけした後、部品をひとつひとつ丹念にハンダ付けして製作していきます。
市販品ベースのエンジンには、燃料消費率を抑制するため、いろいろと手が加えられています。その分、取り扱いはデリケートにならざるを得ず、我が部が地元での走行練習や全国大会で遭遇したトラブルの大半はエンジンに起因するものでした。エンジンの整備・調整不良は、燃費の悪化をもたらすばかりか、最悪の場合はリタイアの危機も招来します。従って、エンジンの整備点検には細心の注意が要求されます。
精巧にできているエンジンには様々な工夫が凝らされています。それを日常的に整備していく中で、自然に技術者としての目が養われていきます。
シャシの整備の中心は、前輪のアライメントと、チェーンのテンション調整です。両者とも燃費記録に大きな影響を与えるため、走行練習はもとより、全国大会時には最重要の整備箇所となります。写真は全国大会時の整備の様子で、右端の部員は伸縮ロッドを使用してトー調整、左端の部員はチェーンのテンション調整を行っているところです。
エコランカーの電子制御回路は過酷な条件下で使用されます。エンジンからもたらされる電気的なノイズは回路を誤動作させる要因になりますし、エンジンの振動でハンダがとれてしまうこともあります。エンジンから漏れてくるオイルや、雨中走行時に車内に浸入してくる水は、コネクタの接点不良をもたらします。このため、回路を正常に動作させれるためには、入念な設計と日常的な点検が欠かせません。写真は全国大会時もので、発生したトラブルの原因を探るため点検しているところです。我が部のマシンは、その当否はともかく、大幅に自動制御化されているため、電子制御回路はまさに生命線で、点検には慎重さと経験が要求されます。
マシンが完成すると走行練習を重ねて、問題点を洗い出して改良を施していきます。また、マシンのポテンシャルを引き出すべく、データを取りながら調整を煮詰めていきます。こうした作業を怠ると、全国大会でのチーム記録の更新はもとより、完走すらおぼつかなくなります。
走行練習を繰り返して完成度を高めてきたとしても、全国大会では何が起こるかわかりません。実際、ピットで万全の整備を尽くしたつもりでも、毎年のようにトラブルに見舞われてきました。それだけに、無事ゴールに入ったときの安堵感は言い知れぬものあります。
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