【発表のポイント】
コンクリート製品製造プロセスにおいて、再生可能で環境調和型のキレート剤(注1)を用いたCO₂鉱物化プロセスの適用可能性を実証しました。
固体廃棄物の削減とCO₂固定を同時に達成でき、地球温暖化を含む複数の環境影響を有意に低減可能であることを確認しました。
コンクリートスラッジケーキ(注2)およびCO₂を原料として、高純度の炭酸カルシウム(CaCO₃)の生成に成功しました。
【概要】
コンクリート製品の製造工程では、大量の固体廃棄物の発生およびCO₂排出という環境課題を抱えています。CO₂鉱物化は、廃棄物中の金属成分を炭酸塩として固定化することで、これらの課題を同時に解決できる有望な手法として注目されています。しかし、従来技術では薬剤の大量使用や廃水の発生といった課題があり、環境面・経済面の両面で実用化に向けた大きな障壁となっていました。
東北大学大学院環境科学研究科の王佳婕(Jiajie Wang)助教、渡邉則昭教授、八戸工業高等専門学校の土屋範芳校長(東北大学名誉教授)らの研究グループは、コンクリート製品の製造現場に再生可能な環境調和型キレート剤を導入したCO2鉱物化プロセス(特許7345791)の適用可能性を検討するとともに、その環境負荷低減効果を評価しました。その結果、本技術によりコンクリート製品の製造時に発生するスラッジケーキの削減とCO₂固定を同時に達成でき、地球温暖化を含む環境影響を大幅に低減できることが明らかになりました。
本技術は、コンクリート製品産業における実用的かつ持続可能な環境技術として、社会実装が強く期待されます。
本研究成果は、国際学術誌 Scientific Reports に2026年1月14日付で掲載されました。
【詳細な説明】
研究の背景
コンクリート製品の製造工程では、スラッジケーキと呼ばれる廃棄物やCO₂が大量に発生し、環境への負担が深刻な問題となっています。スラッジケーキの多くは埋立処分や外部委託処理に頼っており、処理コストの増大や最終処分場の不足といった課題が、産業や地域社会に大きな負担を与えています。
これらの課題を同時に解決する技術として注目されているのが、CO₂鉱物化です。CO₂鉱物化技術は、廃棄物に含まれるカルシウム(Ca)などの成分とCO₂を反応させ、安定した炭酸塩鉱物(例えばCaCO3)として固定することで、廃棄物を減らしながらCO₂を資源として活用できる画期的な仕組みです。しかし、従来法では薬剤を大量に使用する必要があり、廃水の増加やコストの上昇といった新たな環境負荷や経済的課題を招いていました。
そこで2020年に東北大学大学院環境科学研究科の渡邉研究室は、繰り返し利用可能な植物由来で環境負荷の低いキレート剤水溶液を用いたCO₂鉱物化プロセスを開発しました(特許7345791)。本技術により、穏やかな条件でCaを効率よく抽出・炭酸塩化でき、抽出液を繰り返し使えるため、廃液や薬品使用量を大きく減らすことができます。本研究は、本CO₂鉱物化プロセスが、コンクリート製品製造現場においてCO₂排出削減と環境負荷低減を同時に実現し得る、実効性の高い脱炭素技術であることを実証しました。
今回の取り組み
東北大学大学院環境科学研究科の王佳婕(Jiajie Wang)助教、三山凌大学院生、Vani Novita Alviani 氏(研究当時:特任助教)、渡邉則昭教授、東北電力株式会社の進藤学主幹研究員、坂本和寛主査、八戸工業高等専門学校の土屋範芳校長(東北大学名誉教授)らによる研究グループは、繰り返し使用可能な植物由来で生分解性のキレート剤水溶液を用いたCO₂鉱物化プロセスについて、コンクリート製造現場への導入可能性を実証するとともに、環境負荷低減効果を評価しました。
本プロセスは、100℃以下・常圧という温和な条件で実施可能であり、環境負荷の小さい実用的な技術である点が大きな特長です。具体的には、植物由来の生分解性キレート剤であるL-グルタミン酸二酢酸(GLDA)水溶液を用いて産業廃棄物であるスラッジケーキを処理することで、スラッジケーキの削減とCO₂の固定化を同時に達成し、さらに工業原料として利用可能な高純度炭酸カルシウム(CaCO₃)の製造に成功しました。抽出溶液を10回繰り返し使用する評価試験において、スラッジケーキ量を約25% 削減できること、ならびに1kgあたり156gのCO₂ を安定なCaCO₃ として固定可能であることを実証しました(図1)。さらに、ライフサイクルアセスメント(LCA)の結果から、本プロセスをコンクリート電柱製造工場に導入した場合、地球温暖化係数(GWP)を16.1% 削減できる可能性が示されました。加えて、酸性化、資源消費など他の環境影響カテゴリにおいても、1.2~10.0% の改善効果が確認され、本技術が環境負荷の多面的な低減に寄与する包括的かつ実用性の高い環境技術であることが明らかになりました。
本成果は、廃棄物削減、資源循環、CO₂ 削減を同時に実現する革新的なアプローチとして、コンクリート産業の脱炭素化を大きく前進させるものであり、カーボンニュートラル(注3)社会の実現に向けた実装可能な技術として、今後の産業応用が強く期待されます。
今後の展開
今後は、本CO₂鉱物化プロセスのスケールアップおよび長期連続運転試験を進め、実用化に向けた技術的課題の解決を図ります。特に、反応プロセスのさらなる高効率化、残渣の有効再利用、システム全体のゼロエミッション化ならびに省エネルギー化に取り組み、産業レベルでの安定運用の確立を目指します。
また、本技術の他のコンクリート製品製造拠点やセメント関連産業への展開を視野に入れ、実証フィールドの拡大を進めるとともに、さまざまな産業廃棄物を原料とする応用可能性についても検討を行います。さらに、産学連携を通じて社会実装を加速し、本プロセスによって製造される高純度炭酸カルシウムの建設材料・工業材料としての利用拡大を図ることで、資源循環型社会の構築とカーボンニュートラルの実現に貢献していきます。
本研究グループは、環境負荷低減と資源創出を同時に実現する技術として、本プロセスの普及・展開を進め、工業生産における脱炭素化を力強く後押ししていく方針です。

図1. 植物由来の生分解性キレート剤であるGLDA水溶液を10回循環再利用時の炭酸塩化されたCa濃度と、生成した高純度炭酸カルシウムの写真および走査型電子顕微鏡(SEM)像
【謝辞】
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業若手研究(21K14571)、基盤研究(B)(22H02015、23K23283、23H01903、23K26596、24K01412)、基盤研究(S)(JP22H004932)、基盤研究(A)(21H04664)、挑戦的研究(開拓)(21K18200)の支援により実施されました。
本論文は「東北大学2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」の支援を受け、Open Accessとなっています。
【用語説明】
注1. キレート剤:金属錯体の形成に用いる配位子の一種。配位子は、配位原子と呼ばれる酸素や窒素のような非共有電子対を持った原子を 含み、この配位原子が金属イオンと直接結合する。配位原子を一つだけ持つ配位子を単座配位子、複数個持つものを多座配位子と言い、後者がキレート剤。金属イオンとの結合の安定性は、単座配位子よりも多座配位子であるキレート剤の方が安定。
注2. コンクリートスラッジケーキ:コンクリートスラッジケーキとは、生コン工場から発生するコンクリートスラッジ(汚泥)を脱水処理し、固形化したもの。ミキサー車やプラントの洗浄水に含まれるセメント分、砂、砂利などの固形分を分離し、ろ過や圧搾といった機械的な処理を経て、水分を絞り出した状態を指す。
注3. カーボンニュートラル:人間活動によって排出される二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量と、それらを吸収・除去する量を差し引きして、全体としてゼロにする状態のこと。地球温暖化による気候変動への対策として、日本を含む多くの国や地域が2050年までの達成を目標に掲げている。
【論文情報】
タイトル:Characteristics and environmental benefits of CO2 mineralization using a recyclable chelating agent in concrete manufacturing
著者:Jiajie Wang*, Ryo Miyama, Vani Novita Alviani, Kazuhiro Sakamoto, Manabu Shindo, Noriyoshi Tsuchiya, Noriaki Watanabe*
*責任著者:東北大学 大学院 環境科学研究科 助教 王佳婕
東北大学 大学院 環境科学研究科 教授 渡邉則昭
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-025-31481-5
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-025-31481-5
【問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学 大学院 環境科学研究科
助教 王 佳婕
TEL: 022-795-4859
Email: wang.jiajie.e4@tohoku.ac.jp
教授 渡邉 則昭
TEL: 022-795-7384
Email: noriaki.watanabe.e6@tohoku.ac.jp
八戸工業高等専門学校 校長
東北大学大学院環境科学研究科
客員教授 / 名誉教授 土屋 範芳
TEL: 0178-27-7223 / 022-795-6335
Email: noriyoshi.tsuchiya.e6@alumni.tohoku.ac.jp
(報道に関すること)
東北大学大学院環境科学研究科
情報広報室
TEL: 022-752-2241
Email: kankyo.koho@grp.tohoku.ac.jp
八戸工業高等専門学校
総務課総務係
TEL: 0178-27-7223
Email: somu-o@hachinohe-ct.ac.jp